ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《163.干 渉3》(ヨハンナ視点)

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門前でリレントに話しを伺えば、王城より持ち帰った荷は未だ解いてないと言う事だった。

「洗い物だけは纏めてありましたので洗濯場に置いてきましたが、忙しさにかまけて後はそのまま……。これから衣類を2~3着詰め込んで出かけようかと思っておりました」

苦笑いを浮かべながらそう告げたリレントだが、彼の話は無理も無い。
急に決まった日程に、一番翻弄されているのはおそらく旦那様よりリレントの方だろう。
執務の手伝いに加えて口うるさいと執事と旦那様の間を取り持ち、その他の手配に彼の事だ。前マニエール男爵の事についても色々と調べていたのだろうから。
元気そうに見えるが、おそらくリレントも一睡もしていないと思う。
それに、まだお嬢様の存在を本邸で公にしていないが為に、こちらと関わる件は全てにおいて内密だ。その為彼は長距離だと言うのに今回御者の真似事までしなければならないのだ。
本当に頭の下がる思いだ。
旦那様の事はさておき、リレントに関しては同情心を拭えない。ご苦労な事だ。

「いいえ。リレントも色々と大変だわねぇ。出来れば貴方には少しでも休んで貰いたい所なのだけれど、そうもいかない状況なのよ。本当に御免なさいね」

少しでも仮眠をとって貰いたいのは山々だがお嬢様を、とても旦那様とお二人だけにはさせられない。

「その点はお気遣い無く。タフな事だけが私の取り柄ですので」

「そう? では直ぐに戻って来られるとは思うのだけれど、お2人の事、くれぐれもお願いね」

「はい。お任せください。マリエッタ嬢には決してご無理な事をさせないように致しますのでご安心ください。いってらっしゃいませ」

リレントに別邸での事を任せると、私は急ぎ本邸へと向かった。


荷を未だ解いていなかった事が幸いし、仕度はものの30分程で終了した。
リレントの荷は馬車に積んだままだと言っていたが、マス二エラはこちらよりかなり気温の上昇が少ない地域だ。夜間ともなれば冷え込みも厳しくなるだろう。
彼の事だから既に何らかの対処をしているのかもしれないが、確か冬期御者専用の防寒と防水効果を兼ね備えた完全防備の外套があった筈だ。それを用意して貰い、私は再び別邸へと急いだ。

流石にお嬢様のあの状況を思えば、リレントもいるのだし旦那様が無体な事をするとは思えないが、それでも先の旦那様の、奥様に対する執着心を思えば、煩わしい事この上ない状況は想像に難くないのだ。

「お小さかったあの坊ちゃまが、まさか奥様以外の女性にあれ程執着するなんてねぇ……」

病床だった奥様の側を、離れる事無く看病されていた頃の旦那様のを思い出し、感慨深い思いに駆られた。


馬車が別邸の門前へ入ると、こちらの事を気に掛けてくれていたのかリレントが、今朝方纏めた荷を持って中から現れた。

「お帰りなさいませヨハンナ様。私ではこのように手際よく仕度をする事は困難でしたので、助かりました」

「いいのよ、これ位。それより、お二人は変わりない?」

「はい。ご一緒にティータイムを楽しんでいらっしゃいます。ああ、ただ……」

続く言葉を口にしかけて、思わずリレントが含み笑いを漏らした。

「ただ?」

「いえ、とりたてて何と言う事でもない話なのですが、旦那様がマリエッタ様のクッキーに手を出されて、顔をしかめておいてでしたので……。あのクッキーに練り込まれている薬草は、もしかしてクワイの葉……ですか?」

「あら、分りました?」

「ええ、あの手の薬草は、私の生家では良く使われておりましたので」

実はお嬢様に出したあのクッキーに練り込んだクワイと言う葉は、香草として知られるハーブの一種だが薬草としての効能も高い。
疲労回復・滋養強壮・免疫機能の向上といった効果から古くから、病中病後の薬として医術的にも認められており、爽やかな香りとはうらはらにその味には苦みや渋みが隠れており、旦那様も昔から大の苦手と言う代物だ。
通常茶葉として使用する事は煎じ薬として以外では、身体的疲労度の高い職に就いている者達の中にはいるようだが、どうやらリレントが10歳まで育った生家のような武家ではそう言う使い方をしていたようだ。
また、近年の研究ではそれに加えて、老化した細胞を活性化し新陳代謝を促す効果がある事も分かって来ており、女性の間では他のハーブ類とブレンドして健康茶として飲用するも者も増えて来ている。
かく言う私もそう言った理由で購入し、ブレンドして時折飲んでいるのだが、今回の緊急事態に際し使わせて貰った。
こう言った癖はあるが健康に良い物を身体に取り入れる為に、菓子類に練り込んで焼くと言うやり方は、若い娘達の間では最近流行っているのだと先日小耳にはさんだ。
それで、お嬢様には今回初めてクッキーとして食べて頂いていた訳なのだが、お嬢様が何の違和感も無く食べられていたのはとても嬉しい事だった。

「ヨハンナ様に裏をかかれたと仰って怒っておいででしたが、本当は旦那様がお嫌いだからお勧めしなかったのではないですか?」

「あら、そんな事ありませんわ」

軽く微笑みそう応えたが、実はそう言う思いが全く無かったとは言い切れない。
幼い頃、苦虫を噛み潰したような表情をしながら薬湯として出されたクワイの煎じ茶を飲んでいた時の様子が少しだけ、その時脳裏をかすめた。

荷を馬車に詰め込みながら、そう言う話をしていると、私の帰宅に気付いた旦那様が、玄関先まで出ていらした。

「おい、ヨハンナ! あんな不味いものマリーに食べさせて、腹でも下したら如何するつもりだ?!」

「つまみ食いなさったのですか? はしたない……」

「ヨハンナ!!」

「ご存じありません? 最近若い娘達の間でも香草を練り込んだお菓子は流行していますのに」

「そんな事、私が知るか! それよりも、あんな不味いものを何もマリーに食べさせなくても、他に何かあるだろ? 湿布を貼ってやるとか色々と……」

「あら、あれが一番即効性が高く効果的なものですのに? それにお嬢様をあんな目にあわせた張本人にそんな事言われたくありませんわ!」

「仕方ないだろう?!」

「それよりも、あれだけ忠告致しましたのに食べられたんですね?」

「毒見だ、毒見」

「クワイに苦手意識のある旦那様が、どの様にしかめっ面をなさってお食べられたのか興味がありますわぁ。拝見出来ずにとっても残念です」

「お前、私をからかっているのか?……」

「からかっていると言うよりも、呆れているんです。お嬢様はかなりお疲れのご様子。明日までの快復をお望みならば、クワイは欠かせません。お嬢様にお悪いと言う思いがお有りでしたら、今後は色々と御自重頂くださいませ!」

私は微笑を浮かべつつ、余裕の眼差しで旦那様を諫めた。

「おっ、お前にそんな事まで言われる筋合いはッ」

「ああ、それよりもマス二エラへ向かう準備が整いましたの。何時でも御出立出来ますが如何なさいますか? 色々と私にお話もありそうですし、今日は出向かれずにこのままゆっくりと私とお話でも致します? それともマリエッタ様をお連れして、馬車へお乗せした方がようございますか?」

「ッ……クソぅ……。私が連れて来る!!」

そう告げると、旦那様は口惜しげに言葉を吐き捨てた。

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※見直し200文字加筆ました。本編に大きな違いはありません。(17:29)

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~ Comment ~

NoTitle 

お、今回は視点が全く違いのですね。
流石は涼音さん。視点の使い分けが素晴らしいです。
こういう風に視点の違いが分かると、いいのですけどね。
私もなかなかむずかhしいですね。。。
偏った視点の物語が多いですからね。

今年一年コメント及び、訪問誠にありがとうございます。
本日で今年最後のコメントにさせて頂きたいと思います。
一年間お世話になりました。
来年もよろしくお願いします。良いお年をお迎えください。
(*^^)v

NoTitle 

まさかクワイが強精財だった、とかいうオチは……。

調べてみた 

江戸時代に,なぜか「くわい」を食べると精水が減って腎虚になるという俗説があった。

……ヨハンナさん過激(^^;)

LandM様 

今晩は。返コメ遅くなりました。

はい、今回はやはりヨハンナさん視点が欲しいなと思い、書き始めました。
視点替えの醍醐味はやはりそこにあると思うので、「思った時が使い時」とばかりに、視点変えの良い点をガンガン使って行こうと思っています^^

いえいえ、こちらこそ、本当にお世話になってます。
こちらこそ有り難うございました。
私も近日中に伺わせて頂きます。
こちらこそ来年度も宜しくお願い致します。

いつもコメント有り難うございます。

ポール・ブリッツ様 

今晩は。

纏めて失礼致します。

>まさかクワイが強精財だった、とかいうオチは……。

ないです。ないです。そうだったらヨハンナさん医術師相手に激怒でしょう(笑)

>江戸時代に,なぜか「くわい」を食べると精水が減って腎虚になるという俗説があった。

それ怖い……。
実は今回のクワイは勝手に考えて作った略式名で、実はこのクワイはクワイ○○だったか○○クワイ○○だったか忘れましたが、調べていたらそう言う効能の品目の記述があったので、部分的に名を頂きました。
でも、そうだったらヨハンナさん密に怖すぎる!何かの策略か?!でも、それも面白そう。いやいやいや……(爆)
調べて頂いて有り難うございます。

いつもコメント有り難うございます。
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