パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第8章7》

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暫くならしてみたがジュリアスの足に問題はなく、帰りはそのまま騎乗してゆっくりとした歩調で帰省した。
ジュリアスの様子からして大丈夫だろうと言いながらも、痛めた場所は馬にとっての命とも呼ばれる足だ。馬屋に入るとゼロも心配して足の具合を入念にチェックし始めた。
ローレライはその様子を胸に手を当て心配そうに覗き込んでいる。

「よし。腫れも無いな。良い感じだ」

「ああ、良かったわねジュリアス!」

“ブルルルルッ”

ゼロから診断結果が告げられ破顔すると、ローレライはジュリアスの首に飛びついた。

信頼しローレライに頬を寄せるジュリアスの様子を見ていたゼロは、その事を微笑ましく思いながらも、苦笑いを浮かべていた。

「心配しすぎだ」

「だって、本当にドキドキして落ち着かなかったんだもの」

「これで、良かったのかもしれないな……」

「えっ?」

「いや、何でも無い。筋肉の緊張を解したら念のために貼り薬だ。もう暫く続けるぞ。特に今日は久し振りに歩いたからな」

「はい!」

ジュリアスを手放す時、自分以上にジュリアスの世話をやき理解出来る者はいないとゼロは思っていた。けれど、ローレライとジュリアスの関係を見ていると、ジュリアスを手放して正解だったのだと、今では素直に感じていた。

ゼロが足のマッサージしている間に、ローレライは馬屋に常備されていたイモをすり潰すと小麦、ビネガーを合わせ練り込んだ湿布薬をつくり始めた。様子を見ながらいつものように布に塗りつけるとゼロに手渡す。
そんな造作も無い何気ないゼロとのひと時が、今日のローレライには何時になく楽しく感じられていた。


夕食はいつものお店へ、一緒に旅した面々と揃って出かけた。

「明日、競売が行われる。情報によると仔馬も子羊も出品予定があるらしい。情報は更に集まってきている所だから、詳しい事はまた明朝、例の部屋で落ち合おう」

皆の食事が終わるのを見計らうと、フリードルは食後の紅茶も飲まぬまま、一言そう告げランドンに護衛と兼務して後の事を任せると、早々に店を退出した。
フリードルは最近かなり忙しいようで、食事も中々一緒にすることが難しくなってきた。
ローレライは、フリードルに申し訳ない思いでいっぱいだった。

(全ては明日。とにかく明日を待つしか無いのだけれど……)


食後サビエルはローレライを部屋の前まで送り届けると、足早に去って行った。
きっとサビエルもかなり忙しいのだろう。

ローレライは部屋へ入ると大きなため息を一つつき、胸にしまってあるパウリンを取り出し眺めはじめた。
いつ見ても何の変化も無い自身のパウリン。

(このパウリンに、来るべき時に私の婚約者の姿が映し出されるのよね……)

今までそれは何時か、どんな方なのかと思い期待をしたり時には不安になる事もあったけれど、早く知りたいと言う気持ちも何処かにあった。
けれど……。
不思議な事に、最近では全く知りたいと言う感情が起きなくなっていた。
知りたいと思う所か今日は……。

(パウリンを覘く事が怖いだなんて、こんな事を感じたのは今まで初めてだわ。私……、どうしてしまったのかしら?……)

ローレライは自分で自分の気持ちが掴みきれず、分からなくなっていた。


「おいゼロ、 聞いているのか!?」

「……ああ、悪い」

忙しく時間が無い事からと、夕食を兼ねて仔馬の調査報告にとゼロの部屋を訪れていたシドだったが、友の今までにない何処か気の抜けたような生返事に、少しだけ介入をしてみたくなっていた。

「お前のそんな顔、久し振りに見たな……。もしかして、気になるのか?」

「誰が?」

(『何が?』では無く『誰が?』と来たか!)

シドは難しいと思いつつも、ある意味賭けでもあった長年の友と、ある娘との関わりを持たせる計画が、自分の思い道理順調に進んでいる事を汲み取り、思わず笑みが零れそうになっていた。るのを必死に耐えていた。

「ぁー、ローレライ……だっけ?」

必死に頬が緩むのを押さえ込みながら、言葉を口にする。
ローレライの事を今まで『お前』とか『あんた』等としか真面に名前を呼んだことがなかったシドは、少し考えながらもその名を口にした。

「気になる……とか?」

「……。何故だ?」

自分がこれだけヤキモキしているのに、依然として表情を崩さない友が何処かもどかしかった。

「今、お前何を思い出していた!?」

「!! ……なにも……」

かすかに切れ長で薄紫の瞳が見開かれたような気がしたが、直ぐに平素を装われた。
おそらくあのローレライと言う娘の顔がゼロの脳裏をかすめた筈だ。

「まぁ、良い。これで少しはお前の女性観も変わってくるだろうしな」

その事だけでもシドはとても満足していのだが……。

「何の事だ? 私は今でも女は目障りと思っているぞ」

中々自身で認めようとしない頑なな友の態度に、再び悩まされた。

「そうなのか!?」

「……まあ、あいつは……目障りとまではいかないが……」


ゼロの脳裏には、ずっとあの草原でのローレライの涙姿が何故だかチラついていた。

(あいつの存在は、私にとって何を意味しているのか?)

泣いている姿を見て、慰めてやりたいと言う気持ちにはなった。
自然と手が出て頭を軽く撫ぜてやった記憶はあるが、それはきっと泣いている子供をあやすような感情に近かったようにも思えるが何かが違うような気もし、自身でも掴みきれずにいた。

「そうだろ!? だったらッ」

「……妹?」

「はあ?!」

そうだ! きっと自分に邪な考え等を持つ事の無い純粋で素直な妹がいたら、そんな感情になっていたに違いないと推察し、そう思う事にした。

「……それ以外、何が有り得ると言うのだ?」

口から出た言葉は、自身にまるで問いかけているようにも感じられ、その事にゼロは少なからず戸惑いを覚えていた。

「……マジかよぉ……」

「何だ? その反応は」

だが、そんな表情は微塵も見せない。自身の気持ちが掴めないなどゼロにとってはあってはならない事なのだ。

シドは頭を抱え、深いため息を零していた。
何処か腑に落ちない感が拭いきれないと思いつつも、返って来る友の反応を思えば自身の思い過ごし感も拭いきれず……、だが、如何しても何処かスッキリしない。

「まぁ、良い。……それでも少しは進歩しているか……」

「だから、何がだ!?」

「いや、良い。こっちの話だ」

「……相変わらず、変な奴だな」

報告は恙なく終わったが、その後始まった互いに探り合いながらの私的な攻防は、結局明確な答えを残さぬまま有耶無耶に終わってしまった。

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~ Comment ~

NoTitle 

ローレライの設定は面白いなって思いました。
ファンタジー的に。
運命の娘っていうのも、その存在自体ファンタスティックでとてもその生き様は美しいなあ。。。と感じて読んでおります。
(*´ω`)

LandM様 

お早うございます。

設定が面白いと言って嬉しいです^^
この設定を思い浮かんだから、再び書き始めようと思えた作品なので、この作品には特に思い入れがあります。
実はこの作品、最初ツーパターン設定がありました。(もう一つの貴族の娘で無い設定も関連作でいつか書けたらいいなと思ってますが何時になるでしょう?(笑))
運命を背負って生きる事の、困難に立ち向かう姿をこれからも丁寧に書いて行きたいと思います^^

いつもコメント有り難うございます。
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