ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《166.助 走》

 ←パウリンに導かれて《第8章7》 →パウリンに導かれて《第9章1》
昨夜は起きてからの事を思うと、睡眠不足にも関わらず緊張して眠れる気が全くしなかったのだけれど、ヨハンナさんが煎じたお茶のお蔭か、はたまた疲れすぎていたのか、床に入ると微睡む暇も無くいつの間にか眠ってしまっていた。
朝もゆっくりしていられた訳では無かったから、眠ったのは5時間にも満たない時間なのだけれど、目覚めは良かった。
これもきっとアレクシスが戻って来てくれたと言う安心感と、夢を見る事も無くぐっすり眠れたせいではないのかと思う。

「昨日より、お顔の色もかなりよろしいですわね。無事回復もされたようですし、本当に良かったですわ」

これもきっとヨハンナさんのお蔭だ。今朝は少し腰が重い感じがするものの歩行に支障は無かった。
昨日はどうなってしまうのかと思ったけれど……。


身支度を済ませ、朝食が用意されていると言う1階の広間へ移動すると、そこには既にアレクシスが待っていた。

「マリー!」

「おはよう、アレク」

私の姿を見つけると、満面の笑顔で席を立つアレクシス。
自ら席を立ち私の所まで歩み寄って来て、手を伸ばせる位置まで来ると、私を覆い包み込むように優しく抱きしめた。
私も手を伸ばし、アレクシスの背中に軽く手を回した。

「ああ、マリーの香りがする。マリーが側に居てくれるだけで全然違うな。心が落ち着く。今日は緊張して朝食もあまり喉を通る気がしなかったんだけれど、マリーが居てくれたら何とか食べれそうだ」

「そう? それは良かったわ」

アレクシスの瞳を見つめながら笑顔でそう答えた。

回された腕の力が強くなるのを感じ、少しだけ不味いと感じた。
朝っぱらから長い抱擁が続けば、また危惧したヨハンナさんが何を言い出すか分らない。少しだけ気になり視線をヨハンナさんに向けていると、アレクシスが小さく微笑んだ。
今日のアレクシスは何処か紳士的で、軽い挨拶の口づけをしただけで、それを早々に解いてくれた。
そして私に手を差し伸べると、朝食の席までエスコートした。

私を見つめる熱い眼差しは依然変わっていないけれど、今日のアレクシスには今まで社交の場で何度も目にしている『白薔薇の君』を彷彿とさせる落ち着きと気品が備わっていた。

「旦那様もやっと、落ち着かれたようで良かったですわ」

「今朝方はかなり緊張なさっているご様子でした。流石に、朝になっても浮足立っていようでしたら、私も今後の身の振り方を考える所でした」

「本当にリレントには迷惑のかけどうしで申し訳ないわね」

「いえ、いえ、ヨハンナ殿にお気遣い頂く事では……」

私の事を心配し、親身にずっとお世話してくれているヨハンナさんだけれど、やはり乳母として長年アレクシスのもう一人の母ともいえる存在だった人だ。心の底ではいつもアレクシスの事を考え心配していたのだと思う。
リレントさんにしても昨夜宿に着いた時には目に見えて疲れた様子で、本当に申し訳なく思っていたのだけれど、今日は昨日ほど疲れた様子も無く元気そうに見受けられる。
とは言えリレントさんには帰りも御者の真似事をさせてしまう訳なのだから本当に申し訳ない。二人には感謝してもし切れない恩を受けていると痛感した。


昨日、馬車の中でお爺様とお婆様の事についてアレクシスには少し話をした。
お二人も結婚にはかなり苦労されたと聞いていたから……。

我がマニエール家は古くから続く領地を守る貴族の一員だが、如何言う訳か子孫繁栄には些か問題の多い家系だと言う事は既に皆の知る所だ。
私の代までに今まで何度か血縁を持つ家々から養子を迎えている。
最近では祖父である前マニエール男爵がその人で、祖父は元々かつて双子の跡取りを授かった際に二つあった爵位の内の一つを授けたとされる子爵号を持つ家の跡継ぎだった。だが本家が跡継ぎに恵まれなかった為、何としても本家を絶やす訳にはいかないと、子の無いマニエール男爵家からの依頼で養子として本家に戻る事になったのだと聞いている。そのせいで祖父の代よりマニエール家は再び二つの爵位を持つ貴族となった訳なのだが、マニエール家に戻るに際し、曾祖父から約束させられた事があったのだと言う。
それは、マニエール家の出来得る限りの濃い血を絶やさぬ事と、二人の息子を授かった後には、必ず再び分家させる事。他家よりも血縁関係が究極に薄まりゆく我が家系では、それが最も重要な事なのだと言う。確かにその事は私も幼い頃より教えられていた。

そんな理由から祖父は養子としてマニエール家へ入った頃より、血縁を守るべき相手との結婚を望まれている事を承知していた。だからある社交の場で初めて祖母を見初めた時も、あえて側に近付こうとしなかったそうだ。
だが、ある日それを揺るがす大きな出来事に、偶然巻き込まれてしまったのだと言う。

多くの友人等が若い令嬢等を見つけ、睦み合って行く中で、一人何時もあぶれてしまう若かりし頃の祖父。いつもワイングラスを片手に辺りを散策する事が日課のようになっていたそうだ。けれどそんなある日、只ならぬ状況を示唆させる姿が視界の中へと飛び込んで来たのだそうだ。

『やっ、止めて下さいッ。これ以上、近づかないで!』

偶然視界に飛び込んできたのは、秘かに思いを寄せる娘と嫌がるその者にしつこく迫る男の姿だった。男の方は明らかに悪酔いしている様子だった。

『その者の手を離せ!!』

祖父は咄嗟に持っていたワイングラスの中身をその者に引っ掛け応戦し、娘の手を取りその場を必死に逃げ出したのだと言う。
運命とも言える相手との危機迫る状況での遭遇。
だが、その時は自分の置かれている立場を理解していたから、祖父は娘の手を離すと出来るだけそっけなく振る舞い、その場を離れたのだと言う。
けれど窮地を救ってくれた相手に若い娘が好意を寄せるのは最もな話しで、その後娘の方から祖父の姿を見つけると親しげに話しかけて来るようになり、結局祖父は自分の心を偽る事が出来なくなったのだそうだ。
その相手こそが今の祖母なのだが、話は勿論そう簡単には進まなかったらしい。
祖母が名のある貴族の令嬢だったのならば、まだ話は違ったのかもしれない。けれど祖母は“貴族とは名ばかり”と一部の貴族の間からは囁かれている、国家に貢献があった者に贈られる一代限りの爵位を持つ、ナイト爵の息女だった。
勿論、貴族の娘に相応しい教育をそれなりに受けて来ていたし、祖母は優しく聡明な人だ。けれど、マニエール家からの了承はどんなに説得しようとも一向に得られなかったと言う。
そんな二人が頼ったのは巷で噂になっていたポリゼベーテ伯爵夫人の存在。
けれど二人にポリゼベーテ夫人との接点は全く無く、色々な人を介し、結局夫人を紹介して貰うまでに2年をの歳月を費やしたと聞いている。
その間の経緯などについては、私に詳しい事を知る由は無いけれど、愛しい者と引き裂かれるかもしれないと言う辛さを知っているであろう祖父にならば、私達の想いは通じるのではないかと信じている。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村


総もくじ  3kaku_s_L.png パウリンの娘
総もくじ  3kaku_s_L.png 記憶の彼方とその果てに
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ&感謝
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【パウリンに導かれて《第8章7》】へ
  • 【パウリンに導かれて《第9章1》】へ

~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。

ヨハンナさんもリレントさんもマリーを気遣い、
彼女の体調を心配されてるのですね。
こういう場合、二人にとってはアレクが彼女の体調を悪くさせるかもって邪推されてますし(笑)
今のところ、アレクは落ち着いている模様ですが、
それは我慢してるからで解放してからはその分をぶつけるんですよねえ。

マリー、今は穏やかだからって油断しないで覚悟しないといけませんね。

マリーの祖父と祖母も結ばれるのに多大な道を歩んでいた模様。
子供ができにくい家系の中、二人が結ばれるのにどれだけの苦労をしたかと思うと、
自分の境遇と重ねて賛成するか、もしくは反対はしないけど自分たちと同じように何らかの試練を与える可能性もありますよね。

だからといってもうできてる可能性があるとかは言わないでほしいけど(笑)

yama様 

お早うございます。

流石に今までの状態が状態だっただけに、二人も危惧した感が否めませんね(笑)
勿論アレクは今、ご推察通り現状況を見極め必死で耐え忍んでいると言うのが正しい状況です。なので、全てが思い道理に順調に進んで行けば、もう我慢もしないでしょうね(爆)

マリーの祖父母については、そういう境遇もあって、色々分かってくれる部分も勿論あるとは思いますが、そうは行かない部分も勿論あると思います。
こからが一番二人が心を合わせていかなければならない時だと思うので、今は「頑張れ!」としか言いようがありません。

二人を今後も温かく見守って頂ければと思います。

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

「ああ、マリーの香りがする。~」

なんだ、ここにエロエロマンがいる!!
Σ(゚Д゚)
こんなこと一般の人言ったら、単なる変態じゃないか!!??

それhそうと身分の高い人は高い人で大変ですよね。
天皇家も昔は血統重視で血の濃い人同士が結ばれていましたからね。それを考えると、確かに昔の貴族もあったのでしょうね。


LandM様 

今晩は。

書いていて、自然に筆が走った言葉で、アレクなら当然と思って容認してましたが、確かに言われてみればアレクがマリーに告げるから許されるだけの言葉ですね。普通に使ったら確かに変態だっ(笑)

マ二エール家のような存続すらあやしい家々はこういうのも有かなと思いました。
貴族のような家には多々としてありだと思ったのでそう言う設定にしました。

いつもコメント有り難うございます。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【パウリンに導かれて《第8章7》】へ
  • 【パウリンに導かれて《第9章1》】へ