離婚しましょう? 旦那様ッ

離婚しましょう? 旦那様ッ 1

 ←恋愛大賞参加に伴い、こちらでもUPします。 →ずっと心に決めていた《167.邸 前1》
シュヴァル国、護衛騎士団団長スタンベルク・ローゼリアン伯爵は、夜勤明けのこの日、馬丁に馬を預けると、意気揚々と己の邸の扉を開いた。
明日は休みだ。久方ぶりに愛しい新妻とやっとゆっくり過ごせると……。

「ただいま」

ほころびそうになる顔を何とか整え、平常心を保つ努力をしながら声をかけた。
妻が私との縁談を義父の願い通りに快く受け入れたのは、騎士と言う実直な職業についている者へのあこがれがあったからだと聞いている。
ならば妻の前では、私自身も実直であろうと心に決めたのだ。心を入れ替えて。

いつもならば『ただいま』の言葉よりも早く、ほころぶ笑顔で私を出迎えてくれる妻なのだが、今日は何時もとどうやら状況が違うようだった。
変わりに返って来た声は、既に聞き飽きた領域にある、初老の男の声。

「お帰りなさいませ、旦那様。お荷物をお預かり致します」

妻に向けられる筈の柔らかな笑顔を仕舞い込み、執事にコートと手袋を預けると、愛しい妻の所在を聞いた。

「アレは?」

「応接室でお待ちです。何でも旦那様に大切なお話があるのだとか……」

「大切な……話?」

新婚2か月目にして大切な話と言われれば、ピンと来ない方が可笑しいだろう。
私は、はやる気持ちを押さえつつ、緩む頬を押さえながら、愛しい妻の待つ応接室の扉を開いた。

「ただいま、シルビア。今帰ったよ」

妻好みの涼やかな微笑を心がけながら、軽く両手を広げ、いつも飛び込んでくる妻の方に目を向けた。
いつもならば咲き誇るような満面の笑顔で『お帰りなさいませ、旦那様ッ』等と言い、私に抱きついて来てくれるのだが、今日は流石にそれを期待するのは無理なのだろうと何処かで納得しながら頷き、その手を引っ込めて近づこうとすると、耳を疑いたくなるような言葉が、妻の口から吐き出された。

「さっ、触らないで下さい、旦那様ッ!」

「えっ?」

如何したんだ? 急に……。こう言う状況の時は、妻への抱擁も気をつけなければならない状況なのか?
いや……。何かが違う。
妻は何処か……微かに震えていているのか?……。怯えているようにすら感じられるが『まさかな……』と思っていると、究極な言葉が投げつけられた。

「……離婚しましょう、旦那様ッ」

「はあ?!」

突然の、耳を疑いたくなるような妻の言葉に絶句した。
今……、妻は何と言った?!

「いや、えっ? ……何、だって?!」

息を詰まらせながら生唾をごくりと飲み込み、少し声が震えるのを必死で隠しながら、私はやっとの思いで言葉を口にした。



半年程前、亡き父の古い友人の侯爵の護衛の任に就いた。
会うのは実に4、5年振りで、任務に就く中で色々と久方ぶりに昔話に花が咲いた。

『そうそう、あの折そなたに助けて貰ったうちの末娘も先頃やっと社交界デビューを果たしてな。もう17になった』

『それは、おめでとうございます』

『そろそろ嫁ぎ先も考えねばならんのだが、如何だ? お主が嫁に貰ってはくれぬか?』

『いえ、それは流石に申し訳ありません……。私は今年で30ですので……』

成人したばかりの……、自分の中の記憶に残る、当時4歳の幼児と結婚など有り得ないと思っていた。

『何を言っている、丁度良いではないか! 私と妻もひと回り違いだ。ほとんど変わらない。そうか、これも何かの縁だな。よし、決めた。陛下への婚約申請書は私が提出しておくからな。後は良しなに頼むッ』

『えっ、あの、侯爵!?』

殆ど言い逃げ去るに近い形で父の古い友人の侯爵は、城の中へとそそくさと入って行った――。

『マジか?!……』

それから1週間後、陛下より婚約申請受理の書面が我が邸へ届き、私は逃げ場を失った。


その頃の私には属に言う『不倫』と呼ばれる女数人との関係があった。
唯それは、どれも後腐れの無い関係で、夫が女の所へ通っている間の憂さ晴らしと言う、悪く言えばヒモ的存在だった。
若い頃は唯一の女を求めて本気で結婚しようと考えた事もあったが、中々本気になれる娘を見つけることも出来ず、かといって何となく付き合ってみても直ぐ目移りしてしまい、一人の女に長続きした事が無かった。
これは体質的にも結婚には向いていないのだと自覚した矢先、舞い降りて来たのが今の夫人等から声かけだった。
他の女の許へと通う夫を想い、日々寂しい思いをしている夫人等の慰める者の実に多いと言う貴族社会の実態をその時初めて知った。
最初は何処か夫人等の夫に対する後ろめたさもあったが、慣れてくれば救済していると言う思いが強くなって行った。

夫人等の許へと通う若い者の中には、結婚までの腰掛に閨での腕を磨く目的の者や、唯の遊びに呆けている道楽息子など様々だった。
だが一人身でこの年になって来ると、何処かで虚しさも覚えて来るのも事実。
近頃では流石に周囲からも、良い声は聞こえて来なくなっていた。

『女遊びは男の甲斐性だ。夫人等も納得しているようだし、付き合いを止めろとは言わないが、せめて子を成して貰える部類の女とも付き合えよ』

等と次第に言われるようになって来たが、自分では如何する事も出来なかった。
そんな状況だから時折心配し、幾つかの縁談はやって来る。
だが、その多くはどれも私の年齢に見合った相手で、既に行き遅れと俗にいう連中ばかり。
私と似た年齢で売れ残っている女と言うのは、容姿だったり、性格上に何らかの良くない噂を耳にする者ばかりだ。
中には他の者よりかつて勧められた相手も居たりして、それが一度だけでは無く二度三度と重なって来るともうウンザリだ。
だいたい若い頃あれだけ探そうとして見つからず、結婚に踏み切れなかったと言うのに、ただ年のつり合いが取れ独身と言うだけで何故結婚をしなければならないのだ? ここにきて打算的な者と結婚する気になど到底なれる筈もなかった。

『この女なんてどうだ? かなりの男好きだ。この女とだったら、結婚後も女と遊び放題だ』

等と、あからさまにそう言う女を勧められた事もあったが、それこそ有り得なかった。
妻の産んだ子供が自分の子であると言う保証が持てない女との結婚だと?! それこそ御免だ!
散々女遊びに明け暮れている自分が言うのも何だが、結婚するのならばやはりアバズレ女だけは有り得ない!
容姿も見られる程度には整っていなければ嫌だ! こう見えて、私の理想は高いのだ。


と言う事で、今回の話も実を言えば断るに際し、動こうと思えば動けなかった事も無かったのだが、当時私の周囲にあるのはそんな話ばかりで……、幾ら断り続けてもこのままでは何時かは何れかの者と愛も何もない結婚をしなければならない状況は拭いきれず、ならば微かに記憶に残る、幼いながらも顔立ちが整っていたような気のする若い娘の方が幾らかマシかもしれないと思ったのも事実だった。
それに結婚し、妻に対し薄い愛情しか持てなくとも、何も分からない若い娘ならば、容易にこちらの都合の良いように丸め込めると思っていた所もあった。その時は結婚後も今の女等と別れなければ良いのだからと……。
今考えてみれば酷い話だが、当時の私はそんな邪な考えを恥じる事も無く本気で考えていた。
だから結婚に対しては何処か打算的で、何を期待していたと言う訳でも無く、強いて言うならば『跡継ぎを儲ければ周囲から口うるさく言われなくなるから面倒事から解放される』みたいな感覚だった。よって式まで会う必要性もあまり感じていなかった。
実際、話が急だったから職務が忙しいと言うのもあったが、式まで会う事もままならず、全ての話は執事に任せ、式までの間、何度か手紙のやり取りはしたが、読むだけ読んでその返事さえも口頭で述べ、手紙は執事に認めさせると言う杜撰的な対応をしていた始末だった。
当時の私にはまだ見ぬ花嫁に会うよりも、騎士としての誇り高き仕事や、今まで情を交して来た女達に会う事の方が有意義だと思えていたのだ。


だが訪れた式の当日、私は結婚に対し打算的な考えしか持てずに過ごして来た日々を、酷く後悔する事となった。

純白のウエディングドレスに身を包んだ可憐な17歳の娘は、屈託のない澄んだ瑠璃色の瞳で私を見つめると、笑顔で微笑んだ。
その瞬間、私の心臓が大きく跳ねた。

『何だ? この動悸は……』

胸が苦しい……。
それは今までに経験したことが無い程に感じる胸の高鳴りだった。

式の間中、横で跪く娘が気になって仕方が無かった。

『――神の名においてこれより、お二人を夫婦と認めます。誓いの口づけを……』

口づけなど今まで数えきれないほどにして来た筈の私が、おそらく初めてなのだろう。震える彼女を見て狼狽えた。
澄んだ瞳で見つめられると、こちらもなんとも言えない気分になった。
微かに何故だか身体が震えて来て、それを抑えるのに酷く苦労した。
そして、何故だか突如妻となったばかりの目の前の娘に、思わず謝罪したい気分になってしまったのだ。
結婚に対し、私は今まで何と言う邪な考えを持っていたのだろうかと……。
その事を後悔し、自分への戒めと、そして彼女を宥める為に、私は誓いの口づけをそっと彼女の額に落とした。

それだけで、驚くようにかなり身体を硬直させ、恥じらうように頬を染める妻となった者の姿。
参った……。
突如何故だか自分も恥ずかしくなり、赤面する顔を自らの片手で覆った。
まさか今まで散々女にまみれ汚れきって来た自分が、触れる事すら戸惑われる程の恋に落ちるとは、夢にも思っていなかった。

そんな私がその日から1週間の結婚休暇を、祝いの宴と称し友人等と飲み明かしたのは、せめてもの妻となったこの者への償いだった。

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~ Comment ~

NoTitle 

なんだ、この作品は。ギャグなのか、コメディなのか(笑)。
まあ、本人にとっては真剣なんだろうけどなあ。。。
(-_-メ)

まあ、小説で不倫やら女遊びやら書くのはエンターテインメントですからね。読んでいて面白いですけど。

LandM様 

今日は。

この作品は、女に対し真剣になろうとしてもなれずに色男の異名つけられた根は真面目な主人公が、単にまさかの自分の気持ちの変化に気付き、真剣に妻と向き合おうとしている男の焦りと本心を織り交ぜて語った物語です。
書いてる本人至って真面目でギャグのつもりはありません。
ただ、主人公の気持ちをそのまま代弁するとコメディ要素を含んでいる事は認めます(笑)

我が作品のその他の累次作品は外部で掲載中の「元騎士侯爵の遅咲きの花」となります。

こういうのも書いていてかなり楽しいです♪

おおっ、面白いですか?
有り難うございます^^/

いつもコメント有り難うございます。
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