ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《167.邸 前1》

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朝食を終えると皆で直ぐに馬車へ乗り込み、一路祖父の邸へと向かった。
マス二エラは祖父が15の歳までを過ごした地で、かつてこの地の管理を任されていたのは祖父の実の父であるグラツール子爵だった。
祖父がマニエール家に戻ってからもこの地を守っていたそうだが、私が生まれる前に亡くなり、以後爵位は祖父が重複する形で受け継いだが、その管理は国の公的機関に委ねていた。だからグラツール子爵としての号は持っていたが、名乗る事は無かった。
けれど戻って来た時、かつてこの地に居た頃の祖父を知る者がグラツール子爵と呼び始めたのだと言う。

「二つの爵位を持っていたと言う事か。得てして良くある話だな」

そう告げたアレクシスなどは7つの爵位を実は持っているのだと言う。流石は王室と関わりのある名家だ。

祖父が再びこの地に足を踏み入れたのは3年前。
既に空き家となっていたグラツール子爵邸に手を入れさせて、祖母と一緒に数人の雇い人と共に移り住んだ。
第二の人生をここで迎えようと決めたのは、近年胸の病を患っていた祖母を空気の良いこの地で療養させる為だったと聞いている。
祖母は子供の頃に喘息を患っていた経緯があるらしく、そう言う祖母の体質がカスターゼの風土に合わないのではないかと、かかりつけの医術師より告げられていた。当時、まだ引退するには早い時期だったが、祖父は迷う事無く祖母の為にこの地に移り住む事を決めた。今も二人はとっても仲が良いのだ。

確かにここはカスターゼとは全然空気が違う。空は澄んでいるし、鉱石を発掘しているカスターゼと違い、空気の淀みも全く感じられない。

「マス二エラって本当に空気がおいしくて良い所でしょう? ここは自然がいっぱいで川や森にも多くの動物が住んでいるのよ」

「王都周辺には無い風景だな。空も高く感じるし、清々しい朝だ。こうやって車窓から眺めているだけでも心が休まる」

「まだ緊張している?」

「勿論」

苦笑いを浮かべながら、アレクシスはそう告げた。


マス二エラの気候は療養には適していたようで、祖母もこの地に来てからはかなり体調も回復をみせており、温かく天気の良い日などは祖父と一緒に野鳥の観察に、しばしば出かける事もあると聞いている。
おそらく今日などは絶好の観察日和だ。
ともすれば、今日も二人で野鳥の観察に出かける計画を立てていたのかもしれないけれど、今日は私達にとってはとっても大切な日。
祖父母が約束を反故する事無く、待っていてくれる事を信じたい。


「マリーの祖父君の事を私は何と呼んだらいいかな?」

「何とでも。お爺様は、お父様より心の広い方だから、きっと何と呼ばれてもお気になさらないと思うわ」

「いや、でも流石にそう言う訳には行かないだろう……」

「そう?」

「そうだよ」

「先程の宿の主は、グラツール子爵とお呼びでしたが」

「かつての領主の子息とだ知り得ている者だからな。だが私がそう呼ぶのは違うだろう。私はマリーの祖父君とは、かつてマニエール男爵として挨拶を交わした事がある程度の面識しか持っていない」

「では、やはり前マニエール男爵でしょうか?」

「それもなぁ……。前男爵と当人に向かって面と向かい告げるのも、些か戸惑われる……。何人であれ、目上の者には敬意を払うべきだ」

祖父の場合、前マニエール男爵と言うのがおそらく今の正式的敬称の筈だ。
けれど通常爵位を譲った者に対しても敬意を払い継続して〇爵と呼ぶことは往々にしてある。だがそれは自分よりも高位の者に対して敬意を払う意味でと言う事が世の常で、貴族の中でも高位とされている名家の当主が気に病む程の問題では無い。
何においても自らの地位を笠に着せる事の無いアレクシスの姿勢は、相手が自らの祖父だと言う事を除いても、それは尊敬に値する言葉だった。

「……やはり男爵にしよう。相手に対し、不敬に当たる事が無いのが一番だ」

「そうですね。年配者ほど往々にしてかつての爵位に拘る傾向にあると聞きますし……」

祖父に関してそう配慮はおそらくいらないだろうと思いながらも、そのアレクシスの心遣いを嬉しく思うのも事実だった。


話しの間も馬車は進み、ついに祖父母の住むグラツールの邸が見えてきた。
大きな屋敷では無いけれど、白を基調にした外装に、窓などの枠には部分的に淡いターコイズグリーンが使われていて、浮き彫りでている細やかな細工も古典的でとても綺麗だ。
爽やかに感じられバランスのとれた色彩に、いつもここに来ると私は清々しい気分にさせられている。

門を抜け、馬車が邸の敷地の中へと進んで行くと、そこには何やら人らしき姿が立っていた。

「えっ? お婆様?!」

昼間は温かいけれど、まだ朝などは寒さに身が引き締まる季節。まさか療養中の祖母が邸の前に一人で待ってくれているとは夢にも思っていなかったので、馬車が停まるや否や私は一人で飛び降りたくなる衝動を必死に抑えた。
扉を開けてくれるリレントさんを待つのももどかしく、扉が開かれると差し出されるリレントさんの手も取らずに大急ぎで私は馬車を飛び降りた。

「お婆様ッ! まさか、ずっと待っていらしたの?!」

「気になって覗いていたら、近づいてくる馬車があったから、もう待ちきれなくて」

「中で待っていらっしゃれば良かったのに……。それよりもお身体の経過は? 大丈夫なの?」

「変わりないわ。最近では咳き込む事も無くなったし、ここの気候のお蔭ね」

「それは良かったわ」

以前訪れた時に、体調はかなり良くなっていると聞いてはいたけれど、それでも具合の悪い頃の祖母を知っているからどうしても心配になって色々と気を揉んでしまう。
自分の事を心配し、無理をさせてしまったのではないかと思い、姿を見つけ急ぎ駆け寄ってしまったのだけれど、そうでないのならば本当に良かった。

「それよりも、もっと良く顔を見せて。まあ少し見ない間に本当に美しくなって……」

『美しい』などと言う形容を、祖母からされるのは初めてで、あまりに普段の自分には当てはまらない言葉に、思いがけず恥ずかしくなってしまう。
少し照れ隠しをしながら……それでも社交界に身を置くようになったからは初めての訪問。私は改めて姿勢を正すと祖母の正面に立ち、呼吸を整えドレスの裾を少し持つと、丁寧にお辞儀した。

「改めましてお婆様、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

「まあ、マリエッタ。もう一人前のレディね」

「ふふふっ、やっとって感じね。まだお母様のように世間上手ににはいかないのだけれど、私なりに頑張るつもりよ」

「そうね。きっと貴女になら出来るわ」

「有難う、お婆様」

二人して満面の笑みを交わし合った。
そのすぐ後ろには、二人の感動的な再会を見守っていたアレクシスが踵を正して立っていた。

「そちらが、マリエッタのお連れさんね。婚約者の……ドワイヤル伯爵家のご子息かしら?」
(えっ?)

「違うわ! お婆様、彼はッ」

まさかアレクシスの事をあのロナルドと間違われるとは思っていなかったので、私は声を大にして強くその事を否定しようと声を荒げかけたのだけれど、それをアレクシスが制止した。

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~ Comment ~

NoTitle 

爵位か~~~。
確かにヨーロッパでは欠かせない文化ですよね。
ファンタジーでも欠かせないかも。
しかし、こういう設定私の世界ではないから新鮮ですよね。
色々と身分だとか家柄とかあって。
設定が盛り上がりますね。

LandM様 

今日は。

うちは異世界のベースは中世のヨーロッパに似た背景を考え取り入れている部分もあるので色々調べたので爵位云々にはかなり詳しくなりました(笑)
爵位の譲渡については国や時代によって色々違う部分もあります。イギリスでは生きているのに爵位を譲る事は今も昔も認められていませんし、爵位の優劣についてもあまり関係のない国もあったりしますし、過去にさかのぼって色々調べ、その中で自分の中で一番しっくりする時代背景や設定を考えて組んでいるのでそれはそれで最初はややこしく感じる部分もありましたが、今は自分の設定はこうだと決めているので迷う事もあまりありません。
騎士とか貴族とか最初はホントに調べものが大変でしたが、分からない所や自分で作るも有なのはファンタジーの強みですね♪
お互いファンタジーでも異なる世界と言うのは新鮮ですよね^^
私もいつも楽しませて頂いています♪

いつもコメント有り難うございます。
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