パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第9章2》

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ルシオンはランドンの過去を初めて垣間見た気がした。
彼に初めて出会ったのは6年前、ルシオンが17歳の時だった。
父の名代で王城に出仕した帰りに傷を負い行き倒れの少年を保護した。
それがランドンだった。
屋敷に連れ帰ると自室に連れて行き看病をした。
ローレライも野花を摘んで来ては『早く良くなってね』との言葉を残し、毎日のように顔を出していた。
行く所が無いと言うので以来ランドンを傍に置き、15歳になった時に正式に従者に雇った。

「お前、バラサインの出身だったのか!?」

「はい……。口に出せばご迷惑がかかる事になるかと思い、今まで伏せていました。申し訳ありませんでした」

そう告げると深々と頭を下げた。

「今になって何故急に口を開く!? 今の話はバラサインの出身と言うだけで知り得る事では無いだろ?」

ブリムナードと言う性がルマシードらしくないと言う判断も、情報機関かそれに伴う仕事に関連している者にしか即答出来るものではない。

「流石です。ゼロ様」

ゼロはローレライが最初に短剣の逆手持ちをした時に見せた独特な構えに、ずっと懸念を抱いていた。
その持ち手には、ある覚えがあったからだ。

「お前は何者だ? 自らバラサインの出身と認めた上でその様な事を……。まさか、お前キールの!?」

そう口にすると、ゼロの表情は一瞬にして鋭くなった。

「はい、ご推察道理です」

深々と頭を下げながらランドンが喋り終わらぬ内に、ゼロは剣を抜くとランドンの喉元に突き当てた。

「おい! 待てよ!! 何の話だ!?」

「ゼロ! 止めて!!」

ルシオンとローレライが二人して必死に止めようと二人の間に入った。
だがその周囲には、ゼロの声音に反応し黒衣の男たちに埋め尽くされている。
最早ランドンに逃げ場は見つからなかった。

「剣を降ろせよ! 失礼だろ!!」

ルシオンは、そのような状況になっても必死になってランドンを庇い立てしていた。

「いいですよ。このままで。ですがその前に私の話を聞いてください。その後でどうするかはあなた方の判断にお任せしますから。どうせ一度は失いかけた命です。ルシオン様やお嬢様のお役にたてるのならばどうなろうと私は本望です」

「では、その話とやらを聞こうか」

ランドンの言葉に嘘は感じられず、ゼロはそう告げると剣を収めるが、周りはまだ黒衣の男たちに囲まれたままだった。

「有難うございます」

深々と頭を下げるとランドンは昔話を始めた。


「私の父はバラサインの護衛集団キールの団長でした。私は幼少期から父の下で剣を習い何れは父の後を継ぐつもりでいました。あの事件が起こるまでは……」

「事件!?」

皆が口を揃え注目すると、ランドンは重い口を開いた。

「私には3つ上に姉がおりました。当時領主のご息女が侍女を探しており、姉は花嫁修業になるならと1年間の期限付きで侍女として屋敷勤めを始めました。姉にはキールの中に婚約者がおりましたから。しかし屋敷に上がって間もなく、姉に目を付けた領主の子息ライサンドが手を出したのです。……失意した姉は、その夜屋敷の窓から飛び降りました」

周囲は水を打ったように静まり返り、皆が息を飲むのが感じられる。

「今の話には私の記憶に符合する部分がある。だが、キールの団長ともなれば変に口出しも出来なかっただろう」

「はい。父は口惜しく思っておりましたが、公に頭を下げられ如何する事も出来ず……、ですが姉の婚約者はライサンドを許せず、後は散々でした……。ライサンドに夜襲をかけましたが未遂に終わりその後暗殺されたと聞いています。父はその責任を問われライサンドの目の前で自ら首を切りました。その後母も心労から体を壊し間もなく亡くなり……、それは残された私がライサンドを恨み、バラサインを忌まわしく思うには十分すぎる理由でした。ライサンドを亡き者にしようと試みましたが当時13歳の私には如何足掻いても力不足で、果たされる事無く追っ手から逃れる事だけで精一杯で、行き倒れている所をルシオン様に拾われました」

「……ラン……ドン……、何も知らなくて……、気付いてやれなくて今までゴメン……」

ルシオンが、苦しそうに拳を握りしめて歯噛みする。
誰もが言葉を失い、ローレライはとめどなく溢れる涙を抑える事が出来なかった。

「ルシオン様、そんな顔をなさらないでください。私はルシオン様に救われて幸せでした。迷惑がかかるから何も言えなかったのもありますが、貴方がそんな顔をなさる事が分かっていたから言えなかったのも理由の一つなのに……」

ランドンがルシオンに優しく微笑みかけた。

「生まれ育った土地に思い入れなど最早ありません。今のイシュラルが私の愛する地です。ランドン様やお嬢様、私に良くしてくださったイシュラルの方々に感謝しています。そして何より……今でも私はライサンドを憎んでいます。一度は心の奥に沈めたつもりの思いでしたが、もし……、ドレアスを救う為にライサンドを殺れと言われれば、私は喜んで使命を全うさせてみせます! 元々バラサインでは罪人の身。どんな罪でも被りましょう。その思いこそを私が敵では無いと言う証明には出来ないでしょうか?」

「説得力はある。嘘を述べているようにも思えない。ライサンドの手癖の悪さは周知の事だ。お前のルシオンへの忠誠心も信じられる。だが、一応調べさせてもらう。エル! 」 

「はい。承知致しました」

そう告げるとフリードルは、黒衣の男たちを集めて、バラサインに向かわせるべく談合を始めた。

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