離婚しましょう? 旦那様ッ

離婚しましょう? 旦那様ッ 本編《シルビア視点》1

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結婚して2か月の新妻、シルビア・ローゼリアン伯爵夫人は、帰宅した夫である旦那様に声を震わせながら衝撃なる言葉を叩きつけるほかなかった。

「離婚しましょう? 旦那様ッ」

この結婚は当初より自分が父を説き伏せて、おそらく旦那様には不本意な結婚を押し付けただけのもの。
けれど旦那様はそんな私に対し思いの外優しく、閨の中でもとても紳士的だった。

結婚前までは数多くの貴婦人たちと夜を共にしていたと聞いていたから、毎夜躰を重ねることになるに違いないだとか、時には激しく求められ無体な事をされるかもしれないと言う覚悟もそれなりにしていた。
けれど予想に反し、それは通常おそらく世間で言われている『淡泊』と呼ばれる程度のもので、結婚前に知識として取り入れた書物に形式的なものとして記されているもの程度に過ぎなかった。
躰を重ねるのはいつも夜勤明けの帰宅後に仮眠を取ったその日の夜だけ。それも必ず一度で終わる。その後は用意された夫婦の寝室で休む事も無く、いつも旦那様は自室に戻って行った。

以前、私と躰を重ねることがもしかして苦痛なのではないかと……。物足りないのではないかと思い、如何して一緒に休まないのかと尋ねてみれば……。

『いいえ、そんな事はありませんよ。私は……満足しています。それに一緒に休まないのは、それでは貴女がゆっくり休めないでしょう? それに私も夜勤明けで疲れているから高鼾をかいて貴女の側で眠ってしまうかもしれない。それは流石に恥ずかしいですから』

等と仰って下さっていたが、おそらくそれは夫婦としての面目を保つために私を気遣い、かけてくれていた言葉なのだったと言う事が、今の私には良く分かる……。

だから、私がこれだけの勇気を振り絞って紡ぎ出した言葉を、旦那様はその意を汲み取り応えて下さるとのだと思っていた。
それに、旦那様にはこれから急ぎ配慮しなければならない事情もある筈だ。
私の申し出はおそらくは……旦那様にとっても、課せられた荷をやっと下ろす事が出来ると言う、喜ばしいものに違いないのだから……。

だと言うのに旦那様は、如何して鳩が豆鉄砲を食らったようなお顔をなさっているのか?

「はあ?!」

本当ならばこのような言葉を、私から口にしたかった訳では無かった……。
けれど、旦那様の口からその言葉を叩きつけられる事だけはどうしても耐え切れなかった。
だから、やっとの事で言葉を口にしたと言うのにッ。

「いや、えっ? ……何、だって?!」

とても驚いたような、表情を見せるだなんて……。
もしかしたらそれは優しい旦那様のお心遣いなのかもしれないけれど、それは……、今の私には凶器でしか他ない。

「契約違反です。私は速やかなる実行を酷使します!」

私はこれ以上傷つきたくない一心で、更なる強い言葉を旦那様に叩きつけた。


旦那様とは結婚前の……、まだ世間で言う婚約期間中、急な結婚話とあって、旦那様のお仕事の関係で中々会えなかったから、ずっと文を取り交わしていた。

これからの事について、夫婦として生活していく中での決め事は、早いに越した事は無いとお母様に助言され、全てを了承して貰えるとは思っていなかったけれど、とりあえず私の希望的な事だけを記して書いてみた。
それなのに、旦那様は全ての項目において“了承する”との返答を記して来たのだ。

『けれど、お母様……、これをまさか了承して頂けるなんて……』

『ホントね。けれど結婚前から「私は浮気をします。それを認めて下さいね」等と言う殿方はいないと思うの』

『そうよね。そうだわよね?……これは期待するべきものでは無いわよね?』

『だいたい、あちらは貴女に現段階で愛情を覚えている筈も無いのだから、貴女の言う「婚姻後の浮気は容認致しません。発覚した場合は、婚姻解消も辞しません」と言う文言は、あちらにとって好都合の言葉になるかもしれないわ』

『そんな……。それだけは嫌ッ。スタンベルク様に離婚を叩きつけられるなんて耐えきれない! きっと心が折れてしまうわ……』

『ならば、その時は覚悟なさい。それは貴女自らが口にするべき言葉です』

『お母様……』

『そう言う言葉はね、口にされるより先に口にした方が心の重荷は軽くて済むものなのよ。それにあちらから離縁されたとなれば、お父様は怒りに身を任せ、何をされるか分らないと思うの。あの人、貴女を溺愛しているもの。けれど貴女から言い出した離婚だとなれば、きっとお喜びになると思うの』

『そうよね。お父様、毎日口癖のように仰っていますものね。「気が変わったら何時でも言いなさい」って……。私から気が変わるなんて絶対に有り得ないのに』

『それに貴女は例え如何言う事になっても、愛した相手を思いやれる娘だと私は思っているの。相手の不幸は望まない、貴女はそんな優しい娘だわ。だからその時は帰っていらっしゃい。勿論貴女が愛するスタンベルクさんと幸せに一生を過ごして貰えることが私にとっての一番の望みよ。色々仰っているけれど、お父様も本当はそれを一番望んでいらっしゃると思うの。だからこの結婚にあれ程反対もなさった。全て貴女の幸せを思っての行動だったのだから、それは分かってあげてね』

『勿論だわ、お母様。お父様とは色々あったけれど、私、お父様もとても大好きよ』

『有難う、シルビア。幸せになるのよ』


母と約束を交わしたのは、ほんの二月半前の出来事なのに……。

そんな事を思い出しながら、私は潤んできそうになる涙を、必死で奥歯を食い締め堪えていた。

「いや、まてッ。何を言っているのか分らない……」

この期に及んで、まるで何処か戸惑っているような演技をなさるなんて、酷すぎます、旦那様ッ!

「……シルビア……」

優しく……、けれど何処か苦し気にも聞き取れるような私の名を呼ぶ旦那様の声に、私はもう心が限界だった。

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~ Comment ~

NoTitle 

ううむ。これも誤解が錯綜するお話ですね。

この場合は
話せば分かる~~という領域でもないような。
離婚まで行くと、その信念を変えるのはなかなか難しいような気がする。。。

LandM様 

今日は。

はい。このお話元々誤解から始まったので^^

この段階では「離せばわかると」言う領域を既に超えていますね^^;
もう、かなりシルビアの中で心が決まっていたので、中々大変ですよ。
妻視点の攻防も、楽しんで頂ければ幸いです。

いつもコメント有り難うございます。
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