ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《170.邸 内1》(祖父視点)

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昨夜我が邸に届けられた火急の書状。
宛名はクラッセ侯爵の代理の者からだった。

『急ぎお会いしたい義があり、我が当主におきましては明日、マリエッタ・マニエール嬢を伴いそちらへ伺わせて頂きたく思っております。よしなにお計らいいただけます事を切にお願い致したく—―』

「…………」

私は読んだ直後、文をその場で落としそうになった。

何故あのグラッセ家の当主が、我が孫娘とこの地に足を踏み入れる等と言うのか?
訳が分からない。
先頃、息子から聞いた話で不可解に思う点がちらほらと見え隠れするようになり色々と考える所があったのは事実だが、孫娘の背景にまさかそのような大家の名が出て来るとは思いもよらず度肝を抜かされた。と同時に不安を覚えた。

息子から孫娘の婚約に際し、最初に話があったのは今から半年ほど前。
社交界に上がる少し前の事で、私はまだ結婚など早いと思っていたが、相手はかなり良識的な人物らしく、おまけに伯爵家の次男で婿養子に来てくれると言う、願っても無い条件の話だった。
領地に多くの利益をもたらす事も出来ない平凡なしがない領主でしかない我が家のような男爵家に、婿養子に来てくれる者などおそらく中々居ないと思っていた。だから孫娘の婚期は遅くなるものと思っていたし、例え相手が居たとしても貴族の名を欲する成り上がりの権力者か、或いは名ばかりの我が家より貧しい貴族だろうと思っていた。
だから話を聞くにつれ段々とこれは願っても無い良縁だと思うようになった。
だが重要なのは何といっても孫娘の気持ちだ。
家の為だけに縛られ、不本意な結婚だけはしてほしくないと思っていたからそこは息子に確認を取った。するとその点も全く問題がないと言う。

『この話は私よりもマリエッタの方が乗り気なのですよ、父上』

おそらく今を逃しては、もうこのような良縁に巡り合うことも無いだろう。
私は当初はしぶしぶだったが、孫娘の為ならばと、この良縁を最終的には快く認める事にした。
正式には孫娘の社交界デビュー後に話を進めると言う事で同意し、その後正式に開かれるという婚約式には是非出席し、孫娘に祝いの言葉を直接伝えようと思っていた。だが、その直前、孫娘の体調不良と言う理由で祝いの席は延期になったと言う知らせを受けた。
心配で屋敷に顔を出そうかと思っていたのだが、うつるといけないからと言われて拒否されてしまった……。
どうやら伝染のおそれのある病だったらしく、それを聞いて更に心配していたのだが、その後無事回復したという話を聞いて安堵していた。
その後は体力の回復を待って婚約式の日程を改めて決めるとの連絡を受け、ずっとその日を楽しみにしていたのだが、更にひと月が経ち、二月が過ぎても婚約式の話は無く、如何なっているのかと心配し、先月久しぶりに王都へ赴いた際に旧邸に顔を出してみれば、嫁も孫娘も残念な事に留守だった。
元気になり、出歩いているのであれば健康面についてはおそらくこれで問題はない筈。ならば何故婚約式を行わないのかと問うてみれば、何やらはっきりしない答えが返ってきた。

『書類が手違いで、まだ正式になものが届いてないものですから……』

『……何を戯けた事を申しているのだ?!』

息子の言葉に呆れた。
最初の婚約式の日程の知らせを受けて、既に三月以上。それで手違いで大切な書類が届いてない等許されない事態だ。
直ぐに機関に問い合わせると怒号すれば、一瞬困った表情を覗かせた息子の話では、何やら孫娘にちょっかいをかけている輩がいるらしく、その者が裏で何か画策しているのではないかと言う話を遠慮がちに口にした。
その者の名を告げることはかなり戸惑われるようで、教えてはくれなかったが、その事からも相手はかなりの有力者か、金である程度の物事が行える地位に就く者である事が推察できた。
金にものを言わせるなど最低な輩だ!

『その者にとっては世間知らずの小娘を騙すなど、手のひらを反すように容易なことなのでしょう。本当に頭が痛いですよ。相手は王室とも深く関わりのあるらしいのです。私などは手も足も出ない……』

本当に卑怯な奴だッ。
加えてその口ぶりから、かなり口の上手い者であることも推察できた。
おまけに何でも今では孫娘のみならず、嫁まで誑かしているというではないか!
おそらく、かなりそれなりの経験を積んだ年長者なのだろう。
そう思って居たから、それがまさかこのように若い輩だとは思ってもいなかった。

今のグラッセ侯爵は、確かかなりの若い者だと記憶している。
表向きの悪い評判を聞いた事は無かったが、孫娘と嫁まで誑かしているのならばきっと本性は根が腐った奴なのだろう。
確か早くに爵位を継いだ筈し、あの当時の記憶から推察すると、既に結婚をしている筈だ。そのような者が孫娘を伴い来るのだとすれば、これは間違いなく内縁的な関係を求めるものに違いない事は簡単に推察できた。
表立った結婚話ならば何も私ではなく息子に向けられるはずだ。だが息子を外しての話となれば、おそらくそう言う事であることは間違いない……。
こういう話は如何言う訳か往々にして年配者が後見人となり行われることが多いと言う傾向にある。
跡継ぎのいないしがない男爵家の娘なら、跡継ぎを儲ける為に内縁的関係を迫っても受け入れてもらえるとでも思っているのか!?
情けないッ。
確かに私の代でも跡継ぎのない下級貴族の娘を高家に内縁者として嫁がせ、子を儲けた後に実家の跡継ぎとし、後々まで大きな後ろ盾になってもらうという話は時折耳にしていた。
たから、今回の訪問は、おそらくそう言うもので間違いはないと理解した。
そうでなければ息子があのように高家の者を憤慨する言葉を並べ立てるとは思えなかった。
確かに、高家に取り入る事での今後の家の発展や、より良い展望を期待する事は出来る。だがそれだけの為に孫娘の幸せを願う私が、何があってもそのような事はさせられないと思った!
私はどんな者とでも良い。貴族でなくとも孫娘を大切にし、共にマニエール家を盛り立ててくれる者であれば本当に誰でもいいと心の底から思っているのだ。
だからそれを蔑ろにしているであろう今回の面会要望者と会う必要性は全く考えられなかった。

馬車が到着し、妻が孫娘とにこやかに話をする声が聞こえて来た。
何の話をしているのかまでは分からなかったが、可愛いその声が聞きたくて……、姿が見たくて落ち着かない。
応接室を意味もなくうろついている今の自分が何処か滑稽にも思えたが、孫娘を囲い者にするであろう男を笑顔で迎え入れる事だけは断じて出来ないと自らに強く言い聞かせた。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。


あらら、マリーの祖父は父の言葉を鵜呑みにしてしまってアレクに偏見を抱いてしまっていたようですね。

てっきりすべてを察した上でアレクに試練を与えようとしてる大物だと思ってたのですが意外と小さいお方だったようです。

しかしマリーに会わせないようにするとか自分の息子のしていることがおかしいとは思わなかったのかな?
老いて判断力が鈍ったのかはわかりませんが、一度アレクにやり込められてしまうのは間違いなさそうですね(笑)

さて、アレクはこのお爺さんをどうやって説得させるのかな?

yama様 

今晩は。
はい、お爺様、すっかりアレクの事誤解しています^^;

でもちょっとネタバレするとアレクの誤解が解けてからも直ぐに「そうか。では孫娘を頼む」とはなりません(笑)
息子の事は少し何か隠し事があるかも程度には思ってましたが、ここまで事が大きいとは思ってませんでした。
実はお爺様気質的にはyama様の思われていた印象に近いかもしれません。
結構ある種の人間には怖い人かな?
まだ多くは明かせませんが……。

でも、先ずはアレクに頑張ってもらって、その後も解決してもらわなくてはですね^^

いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

ううむ。
大体、こういうものは誤解と偏見で産まれるものですが。
それが払しょくされるのも案外時間がかかるものなのですよね。
アレクがそれをどう払しょくするかが大切ですね。

豊臣秀吉もねねの両親には了承は得られず。天下取りをしても、豊臣秀吉は、両親に結婚に納得がいってなかったらしいですからね。

LandM様 

こちらにも有り難うございます。

そうそうこういうものに誤解や偏見はつきものです。
婚約していると思っている孫娘が他の男とやってくると言うのですから、お爺様も困惑しちゃいますよね(笑)
色々詮い索もしちゃうだろうし、でもアレクだって負けてません。
彼は色々と手段を考えてここまで来ています。
部屋に入れてもらえさえすれば反撃開始です!

秀吉の話は有名ですよね。
さあアレクはどれだけ了解を得られるのか?

引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。
いつもコメント有り難うございます。
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