パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第9章5》

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122番の仔山羊はその場で金をチラつかせながら『即金で倍額払うから譲ってくれ』と申し出た所、買主の反応は手のひらを返したように変わり、早々に仔山羊を引き渡してくれた。

「マルガリータ!!」

ローレライは満面の笑みを浮かべて仔山羊を抱きしめ頬ずりをしている。

「良かったなレライ。ゼロ、感謝する。金は後でランドンに払わせるから」

ルシオンも頭を下げて礼を言う。

「それは良い。私が勝手にやった事だ」

「いいえ、良くないわ。原因はこちらが持ち込んだ事なのに……」

「まぁ良いって。ゼロがああ言うんだから貰っておけ」

(あいつ、金持ってるし)

こっそりとシドが耳打ち際で言葉を付け加えてくれたけれど、何だかそれも申し訳ない。最近はゼロに助けられてばかりだとローレライは感じていた。

「お前たちが気に病むことでは無い。支払う義務が生じるとすればそれは出品者のザグソンとか言う奴だ。収集が可能ならその者に支払わせる」

「ああ、そう言う事なら」

ゼロがそう告げるとルシオンは納得した。


宿に戻ったルシオンとローレライはランドンの部屋へと今日の報告へ訪れた。

「そうですか、仔山羊は見つかったのですね。良かった。では、ザグソンを先ずは捕らえなければなりませんね」

「そうなんだけど、誰も人相も知らないし……」

「私が……、と言いたい所ですが、昔の記憶ですから実際会ってみなければ判るか如何かすら何とも言えませんけどね」

そう告げるとランドンは躊躇し、苦笑いを零した。

「そんな事ないわ。ここにいる誰よりもきっとランドンは役に立てる筈だわ。私ゼロにお願いしてみるわ!」

そう言い部屋の扉を勢いよく開け放った途端、ローレライは誰かにぶつかった。

「あっ、ごめんなさい!」

潰された鼻を押さえ、さすりながその者を見上げた。

「乱暴だな」

そこには薄笑みを浮かべ、ローレライを見つめる者の姿があった。

「ゼロ!!」

ローレライはかすかに頬が高揚するのを感じていた。
けれどゼロはその背後に視線を移すと、表情を変えた。

「ランドンに話があって来た。少し良いか?」

急に涼やかな眼差しになり、ローレライは今しがた自分がゼロにお願いに行こうと思っていたことも忘れて急に不安になって来て、後ろを振り返ると心配そうにランドンを見つめた。

「勿論です」

ゼロが一歩足を踏み出すと、ランドンは踵を正した。


「お前に頼みたいことがある。この様な真似をしておいて頼める義理でも無いのだが……、話だけでも聞いてもらえるか」

ゼロ口から紡がれた言葉が殺伐としたものでは無く、柔らかな声根だったのでローレライはその事に少し安堵した。

「はい。如何いったご用件でしょうか?」

「今日の話は聞いたか?」

「はい。只今伺いました」

「ならば話は早いな。明日から3日の間にザグソンが市に競売で得た金を受け取りに来るそうだ。その面通しをお前に頼みたいたい」

「私からもお願いするわ。ランドン、私たちを助けて!」

「お嬢様……。私は構いませんが、しかし……」

ゼロの言葉にランドンは少し言葉を詰まらせた。
自分にとっては願ってもない話だが、そんな事が現段階で自分に許される事なのだろうか?
まだ自分は疑いが晴れていない身だ。
それに最近ゼロが何かしらお嬢様に対し、親身になって世話を焼いてくれる状況が現在置かれている師弟の関係を逸脱しているようにも感じられ、これからのお嬢様の事を思うと戸惑いを覚えずには居られなかった。

「何だ?」

けれどお嬢様の事をどの様に考えていらっしゃるか等と差し出がましく自分が聞くこともできず、言葉を濁した。

「いえ……、現段階で私の身を動かすのは、貴方の立場が不味くはなりませんか? 貴方は私を信じて下さっているようでしたが、他の方たち……、多くの方々は私を信用して下さっていないでしょう? それに私は彼らを怒らせた……」

「奴らは血気盛んな所はあるが器量が狭い訳では無い。お前の身が潔白であるとさえ分かれば大丈夫だ。私が保証する」

「それに6年前の記憶ですから、お役に立てるという保証は何処にも……」

「構わん。情報は探れても、誰一人として奴の顔を知る者は居ない。この状況においての解決策を他に見い出せない者に等文句は言わせん!」

「そうですか? では、喜んでお引き受けさせて頂きます」

ランドンは小さく吐息をつくと、ほんのり笑みを浮かべた。

「良かったなランドン。これで疑いが晴れたも同然だ」

ルシオンがランドンの肩をたたき喜びを露わにしている。

「勘違いするな。見張りはつける」

「まじかよぉ~」

現状況はルシオンが考えている程甘くはない。

「当然の事です。分かりました。お役にたてるか分りませんが、微力ながら協力させて頂きます」

そう告げると、ランドンはゼロに敬意でも払うように丁重に深々と頭を下げた。

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