ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《172.邸 内3》(アレク視点)

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マリーの祖父君に手渡した書類は、正式に公的機関も認める形式の上申書だ。
加えて私の戸籍の写しも入れてある。
今回何を疑われ、何と言われるかが分からなかった為、私自身が如何に真面目に政務をこなし領地を治め、何の問題も抱えることなくマリーを迎え入れる状況にあると言う事を証明する為の手段の一つとして書類を用意させた。

祖父君は、穴のあくほど用意した書類を唯々見つめ続けていた。
次なる言葉を待ちわびる身としては、じれったくもあるが、私からは現時点では何も言う事は出来ない。
私の事に対してあらぬ誤解を植え付けられているのであれば、それを払拭して……、全てを納得してもらえた上でこそ、これからの交渉は正式に成り立つものだと思い、相手の出方を待っていると言うのが現在の状況だったのだが、しびれを切らしたマリーが祖父君に懇願する声をあげた。

「お爺様……、お願いよ……ッ」

私の心を読んでくれたのか?
いや、心はいつもマリーと共に……。二人の想いは一緒なのだ。
私は側に寄り添うマリーを見つめ、その手を互いに固く握り合った。

「あなた……、その書類に何か問題でも?」

「……いや……」

「では、お茶の用意でもしないといけませんわね」

「……、とりあえず話を聞こうか、グラッセ侯爵」

「はい! 有り難うござぃ」
「キャーッ、お爺様、有り難うございますッ。大好き!!」

「こっ、これマリエッタッ!」

私が礼の言葉を述べるべく深々と頭を下げている途中で、マリーが私の手を放し祖父君にいきなり飛びついた。
首にしがみつき、頬に唇を寄せているッ。 

「…………」

その姿に、一瞬固まって声も出ない。
気分がとても悪い……。
了見が狭いと言われようが何と言われようが、私以外の男にマリーが愛想を振り撒く姿に、少なからず苛立ちを覚えた。
目にしているのは見るのも耐えがたい状況ではあるが、これを受け入れる度量も無い男と思われるのも不本意だ。
私は何とか平素を装う事に、かなり苦労したが成功したと思っていた。だが、何となく視線を感じそちらに目を向けてみれば、夫人がこちらを見てかすかにほほ笑んだ気がした。
……心を、見透かされてしまったのだろうか?……



邸の中へと何とか招き入れられる事に成功し、応接室へと通される。

「失礼いたします」

深く一礼をし、案内された長椅子へと腰を下ろした。
私の横には寄り添うように座る愛しい者の姿。
マリーの右手がそっと私の腕に触れて来て、それだけで張り詰め続けていた緊張が幾分和らぐのを感じた。

対側に腰を下ろした祖父君の表情は硬く崩されることは無い。
誤解が解けた筈のこの時点においても頑なな態度を崩さないと言う状況に、これから対抗しなければならない相手は、おそらく一筋縄ではいかないことを示唆した。
流石に『分かった、では孫娘はお前に託そう』と言う話には直ぐにならないとは思って居たが、これからどんな話を突き付けられるのか?
私は息を詰めていた。

「さあ、何もありませんけれど、少しお茶でも飲んで寛いで下さいな。グラッセ侯爵もゆるりとなさってね」

「恐縮です」

祖母君の言葉に続いて、慣れた手つきの侍女がティーセットに茶を注い行く。
マリーはかなり緊張が解れた様子で、ティーカップを直ぐに手に取ると、一口飲み込んだ。

「ああ、フランの煎れるお茶は本当にいつも絶品ね」

「恐れ入ります。お嬢様、こちらのクッキーもご一緒に是非」

「まあ! これはお婆様の焼いたものね」

「はい。昨夜お嬢様が来られると聞いて、奥様と一緒焼いたんですよ」

「あなたはクルミ入りのこのクッキーが昔から大のお気に入りだったから、久しぶりだもの。食べてほしいじゃない。貴女のお連れの方にもね」

中に入ってからの祖母君は、祖父君とは対照的で終始笑顔だ。
食べて欲しいと思われていた相手が自分では無かったことが残念ではあるが、現在快く受け入れられているのは自分なのだと思う事で、その点は問題なく払拭できた。
祖父君はと言えば、紅茶を口に運んではいるものの無言のまま未だにただ私を見据えている。
私に対し何を思い、何を考えているのか? 
私はと言えば祖父君の様子が気にかかり、紅茶を口にする余裕すらなく、だがそんな私を見るに見かねた祖母君が、気遣う姿に唯々恐縮し続けだ。

「あ……、はい、頂きます」

マリーはと言えば、クッキーを手にする私の姿をじっと見つめながら、続く言葉を期待するような眼差しだ。

「……どう? 美味しいでしょう?」

甘みを抑えたほんのりミルク風味の生地。それがクルミの香ばしさと溶け合い何とも言えぬ風味を齎す。口あたりが軽く、とても食べやすい。
菓子類をあまり好まない男の口にも優しい後味だ。

「本当に、絶品です。この口触りが何とも言えず、癖になりそうです」

「まあ、有り難う!」

祖母君もとても嬉しそうで、私は気おくれする事なく会話にすんなり入って行けたことに安堵した。
やはりこういう重要な場で、一人だけ浮きたくはない。と思っていれば、祖父君が大きなため息を一つついた。

一斉に皆の目が、祖父君へと集中する。

「……どうやら私の解釈は間違っていたようだな。マリエッタは侯爵と一緒に居て、本当に楽しそうだ……」

静かに告げられた言葉には、何処か哀愁が漂っていた。
祖父君の心中も複雑だろうが、今の私にはその事を思いやっている余裕はない。
今こそ私の真なる気持ちを伝えるべき時だと解釈し、口を開こうとしたその時。

「そうよ。私、アレク……いえ、彼の側に居ることが出来て、今とても幸せなの。だから、お爺様、私たちに力を貸して。どうか、私たちの事を認めてください!」

突如マリーが胸の奥にしまっていた思いを一気に捲し立て、私はまたまたお株を奪われてしまった。

「それとこれとは話は別だ。貴族同士の結婚は相愛と言うだけで易々と成り立つものでは無い。私の言っている事の意味が分かるか? 侯爵」

「勿論です。私も易々とお許しを貰えるとは思ってはおりません。ですが、今日は何としても認めて頂きます!」

私は、祖父君の言葉を重々しく受け止めつつ、自らの意思もはっきりと主張した。

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~ Comment ~

ごぶさたしてます 

このおじさんも悪い人じゃなさそうですね。まったく政治ってやつがからむとろくなことがない。それと腹黒い身内と。
そういや腹黒い身内さんをこのところ見ないけど、裏で何やら画策してるんでしょうね。あれでやられっぱなしですむわけがないし。

「姫、結婚してはくれないか」
「誰があなたなんかと!」
「なぜ拒む。私は金も権力もある。そのうえ美形だ」
「でもあなた、女じゃない……」

というギャグマンガを昔読んだなあ。

ポール・ブリッツ様 

今日は。お久しぶりです。

はい。絵爺様は悪い人ではありません。かなりの常識人です。
両親これだけ常識人なのに何故あのような息子が育ってしまったのかと言う理由は、少し前のお婆様の台詞でニオワセテおいた件かな?(笑)
お父様は今裏に隠された状況を知っているのか?
まあロナルドが連れていかれたのは耳に入っていると思うので、かなり心中大変な状況ではあるでしょうね(笑)

おお!そんなギャグマンガがあるんですね。
ギャグでないと、怖い世界だ~(笑)

コメント有り難うございました。

NoTitle 

むむむ。目に入れても痛くないおじいちゃんの登場ですね。
ここは友情の殴り合いで解決!!
・・・というわけにはいかなそうですね。

頑固なおじい様を説き伏せるのは若者では大変だぞ。
アレク。。。(ーー;)

LandM 様 

今日は。

はい。息子溺愛(今は昔ほどではないく息子を信じてやまない父)、更にそれに輪をかけて孫溺愛のお爺様の登場です。
おお!殴り合いッ。最終的には当たらずも遠からずの予測かな?(笑)

その前にある程度説き伏せないとならないのでアレクは大変です。
でも、彼は何があってもマリーをあきらめる気は無いので、多分大丈夫でしょう^^

いつもコメント有り難うございます。
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