パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第10章2》

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激しかった雨は2時間程で急に止んだ。
4人は奥方に礼を告げ早々に牧場を後にした。
帰り際に厩舎で、今夜までこのまま天気が回復状態にあれば星を見に行こうと雑談していた話もニックと呼ばれていた男には聞こえている筈だ。あの反応からして、何らかの関心をこちらに覚えたに違いない。興味を持ってているのであれば何らかの反応はあるだろう。

ランドンは自分の風貌を今まで気にした事は無かった。だが、ここでは少なからずその件については気を付けなければならない事を自覚した。
先程のニクソンの反応を見る限りは……。

“……ゴード……”。

驚いたような眼差しをこちらに目を向け、ニックと呼ばれている男の発しかけた名は、ランドンの父を思わせる名だった。ランドンの父の名はゴードン。
ニックが実はニクソンならば、姉の婚約者だった男が、成長した婚約者の弟を自らの上司であり義父になるかもしれない男と、一瞬見間違った事は十分に考えられる状況だった。
その事を伝えると、天候不順から今日は丘にはいかず宿で休もうかと考えていた様子だったフリードルは、結局宿に泊まらずタウリンの丘で寝袋を持って待機しようと言い始めた。
こういう事もあろうかと、万全体制は既に整えている。雨よけ用に簡易式な庇も持っている。野宿をしても何の問題も無い。
一行は行き先を変更し、ランドンの案内でタウリンの丘まで向かうことにした。


丘に到着すると荷を下ろし皆で庇を張り、とりあえず日よけを作る。
これで多少雨に降られようと完璧だ。日差し除けにもなる。
中に座り空を見上げながら久し振りにゆったりした時を過ごす。

「空が高いな。空気も澄んでいる」

「はい。こういう場所が星を見るのには最高なんです」

集落から少し離れた町明かり一つ届かぬ丘の上。陽が落ちれば星の光が届かぬ雲の多い日こんな日は、空は真っ暗闇に包まれる。
だが所々雲が途切れはじめ、間から日も射しはじめて来た。
時間を追う毎に天候は回復傾向にある。それは今夜綺麗な星空が眺められるかもしれないと言う希望を持たせてくれた。

「死んだ筈の彼が、何故生きていたのでしょうか?」 

サビエルが何処か考え込みながらゆっくりと口を開いた。

「聞いた話では崖に追い詰められ斬られ、そのまま転落死したとの事でしたが」

ミゲルが続く。

「下が海で死体の捜索が難しい状況ならば、おそらくそこまでは調べず死亡扱いにしたと言う事だろう」

元々助ける気が無い者を、そこまで調べはしない。そう言うものだと言う事を、フリードルは良く知っている。


時間は経過し、日も少しずつ陰り始めた頃。
空にはまだ薄い雲が少しかかっているが、どうにか雲の合間から少しの夜空を望める状況だ。だが残念なことに、サザンクロスまでは拝めそうにない。
この状況では待ち人が来る可能性もおそらくは薄いかもしれない。
ため息をつき、残念そうな表情を浮かべるランドンに気づき、フリードルは声を掛けようとしたその時、足音を忍ばせてやって来るある人影に気付いた。
フリードルは息を詰め、咄嗟にそっと腰の剣に手を添えた。

「もしかして……、ラーンなのか!?」

震える声で恐る恐るランドンの後姿に声をかける者の姿は、先程雨宿りした厩舎でニックと呼ばれていた人物だった。

「ニクソン・グレイブ……、貴方ですね。まさか生きているとは……。良かった」

互いに死んでいるであろうと思われていた人物2人は、そう告げると肩を寄せ硬く抱き合った。

ニクソンは斬られて崖から転落後、何とか自力で泳いで対岸へ辿り着いたそうだ。
そこで倒れていたのを老齢の漁師に助けられた。
傷が癒えてからも一人暮らしの漁師をそのままに出来ず、3年間前世話になった漁師が他界するまで共に生活をしていたらしい。

「もはや私には何も残されていなかった。キールを追われ、ランドンは消息不明と聞いていたから死んだものと思っていたが、まさか生きていたとは……」

「それはこちらのセリフです。私は傷を負って倒れていた所をある優しい貴族の子息に拾われました。家族同然に手厚い介護を受け、以来その方にお仕えしています」

「そうか……。お互い幸運に恵まれたのだな。フローラが……、守ってくれたのかもしれないな」

「そうですね」

感慨深く互いに呟いた。

「しかし、ならば今どうしてこんな場所に!?」

ランドンの境遇を知り得ているニクソンにとって、到底このバラサインはランドンが昔を懐かしみ訪れる場所には思えなかった。

「先日トランゼの市で貴方を見かけたのです。貴方は仔山羊を売却に訪れていましたよね。実はその仔山羊は、私の仕える屋敷で飼われていたものでした。屋敷のお嬢様がとても大切に育てていらしたもので、所在を探しておりました」

さらりとランドンが口にした。

「そうだったか……。それも因果な巡り合わせだな」

悲し気に微笑みを浮かべると、ニクソンはそっと目を閉じた。

しかし、やがて目を見開いたニクソンの瞳には、全く違ったものが宿っていた。
そこには強い決意が漲っている。

「と言う事は、私を捕まえに来たと言う事か? 側に居る者達は唯の護衛には見えなかった。出向いたのは確かに私だが……、そう私も易々と捕まる訳にはいかないんだ!!」

そう告げるが早いか、ニクソンは忍ばせていた短剣を抜いた!

「私は何としてもフローラの仇を打ちたい!! フローラを死に追いやったライサンドをどうしても許すことが出来ないんだ!! フローラの死で奴が改心しているのなら、まだ許せずとも考える余地はあった……。だが、あいつはゴードン殿も死に追いやったばかりか、3年経って戻って来てからも乱行行為は留まる所か酷くなるばかりだ!! 奴はあれから何人の者を死に追い詰めたと思う!? 奴だけは決して許しはしない!!」

その眼差しは真剣そのものだった。

隠し持っていた短剣を抜こうか抜くまいか迷っていたランドンの背後から、気迫に満ちた声が聞こえた。

「そこまで!」

その声を合図にニクソンの後方に回り込んでいたミゲルが剣を振り落とした。
ニクソンの対側には更に剣を構えて威嚇しているサビエルの姿があった。
並みの使い手では無い事を直ぐに理解したニクソンは、深いため息をつくと悔しそうな表情を見せながら両手をゆっくりと挙げた。

「話はだいたい分かりました。そう言う経緯なら、交渉の余地はありそうですね。詳しい話を伺いましょうか。もしかしたら私たちは手を組めるかもしれませんよ」

そう告げるとフリードルは不敵な眼差しで微笑んだ。

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~ Comment ~

NoTitle 

死んだはずの人と出会う!!
そんなファンタジー展開を作っていない!!
・・・ということに気づいた私。
う~~む、医療従事者なので、死をリアリティに捉え過ぎて、実は生きていた展開を忘れていたのかもしれない。。。
勉強になります。
(*ノωノ)

LandM様 

今晩は。
こちらにも有り難うございます。

死んだ人と出会う展開は実は好きだったりします。
そういえば私の作品名はもう一作そんな展開がある事に今気付きました(笑)
そうですね。LandMさんの作品は医療系も結構多いですよね。
私も今は医療関連の仕事なので、分かるような気がしますが、実は生きていた展開、色々と考えるとバリエーションも結構変えられるので楽しいですよ♪
是非いつか使ってみて下さい^^

いつもコメント有り難うございます。
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