ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《176.中 庭1》

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私の気持ちなどお構いなしに、目の前の二人は剣を片手にやる気満々のようだ。
祖父は鋭く射貫くような眼差しを送りながらも、口もとは微かに緩みを帯びており、何かを見透かしているような余裕に満ちた眼差しが感じられている。
一方のアレクシスは緊張をしているのが表情は少し硬いが虚勢を張っているのか目は笑っておらず、その眼差しも鋭い。
最早この二人を止める手立ては無いのか?

「お爺様の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿―ッ!! アレクシスに何かあったら、私……、絶対に許さないんだから!」

結局、私はと言えば、最後の悪あがきのように叫び散らす事しかできなかった。

「マリエッタ、大丈夫よ。お爺様だって、事は弁えていらっしゃる筈だから」

優しい眼差しで私を慰めるように見つめる祖母の姿。

「安心しろ、命までは奪わん。軽く手合わせをするだけだ」

絶対にそれは嘘!
あんなに怒りを含ませていた祖父が、それだけで済ませる筈が無いと思った。
それに軽く手を合わせるだけで、命までは奪わんとか言うセリフは有り得ない。まるで半殺しにしてやるとでも言っているようなもの。

「でも……、お爺様の目、絶対にあれは本気だわ! それにアレクシスだって、お爺様に付き合う事なんてないのにッ。何故こんなに無謀な事をしようとするの!?」

私は半分涙を浮かべながら祖父を睨みつけると、反対側にいるアレクシスへ向き直り、縋るような眼差しを向けた。

「勿論マリーの為に決まっている。貴族たる者、愛しい女を手に入れる為に、古式ゆかしく剣を持って決着をつけると言うのも悪くない」

「私、そんな事をアレクシスにしてほしくは無いわ!」

何よりも、私はアレクシスが怪我をする事が怖い。勿論それは祖父に対しても同じ……。

「ほーう、良く言った。良い心がけだ。では、負けたら手を引けよ」

「絶対に負けませんよ!」

「減らず口をッ」

最後の言葉と同時に、形式的な挨拶を交わすことも無く、最初の剣は祖父の方から先に放たれた。
祖父の剣は鋭く、真っ直ぐに放たれた剣先は、迷うことなくアレクシスの手元を揺らす。

「ぅぐ……ッ!!」

アレクシスは祖父の太い筋肉質の腕から放たれる剣を何とか受けきった。その表情は真剣そのもので、そして何とかその剣を払いのけた。

「その年齢で、この重さ……、流石ですね。腕が一瞬痺れました」

「まだまだ若い者には負けん!」

「おかげで気合が入りましたよ」

そう告げるとアレクシスが薄笑みを浮かべた。

(そんな……、そこは涼やかに笑っていられる場面じゃないでしょ、アレクシス!)

絶対にアレクシスに分が悪いと思っていたのに、その次から繰り出される剣を、軽やかにかわして行くアレクシスの姿。

「嘘でしょ……」

突いてはかわし、かわしては突きの攻防が目の前で繰り広げられていく。
アレクシスは直ぐにやられてしまうだろうと思っていたのに、祖父と見た所、互角に闘っている?

「嘘……。アレクって、こんなに剣が上手だったの!?」

幼い頃のアレクシスの言葉を思い出し思わずそう呟けば、一緒に様子を見守っていたリレントさんが、その疑問を正してくれた。

「旦那様の高士教育修了過程での剣術成績評価は特Aでした」

「特Aってすごいじゃない!」

特Aと言うのは普通に推薦無しで剣士の道が許される基準だ。
アレクシスは子供の頃、剣術は苦手だった筈なのに……。
13歳だったあの頃も確か

『母が心配で、最近では剣術にも身が入らなくてね。いつも練習相手に叱らればかりいる』

等と言っていたが、その時のアレクシスの練習相手って……。

「もしかして、リレントさんは高士教育過程では、アレクと剣術の練習とかもしていたの?」

「はい。私は既に師範水準値でしたから、旦那様の良い練習相手になるだろうと、先の旦那様が仰って……。旦那様の基礎水準値を高められたと自負しております」

深々と頭を下げるその練習相手がこのリレントさんならば『叱られてばかり』と言っていた理由も頷ける。
叱られてばかりいたかもしれないけれど、決して下手では無かったと言う事だったのだ。

「あの上申書は、嘘では無いようだな。多少は覚えがあると見える」

「当然です。曲がりなりにも将来陛下のお側お近くに仕えようとしている臣が……、剣が使えぬなど恥ですからねッ」

剣を繰り出しながらそう答えるアレクシス。
余裕はなさそうだが、決して祖父に劣ってはいない。

「……では、今の臣等はお主からしてみれば恥ずべき存在と言う訳だな。剣が達者な者等武官上がり位だ」

「古き者の価値観と、新しき時代を担うべき者等の価値観は異なるものです。それを理解する位の柔軟性は私にもあります。私は新しい時代を担う……、臣となるべき者ですから」

「小賢しい奴だが、その心意気だけは認めてやる!」

こんなに激しく剣でやり合っているのに、何故こうも悠長な会話が出来るのか?
と思っていたら、祖父のくりだした剣が、アレクシスの顔を再び歪ませる。

「アレク……、頑張ってッ!」

震える手で何とか防ごうと必死な形相のアレクシスを、如何すれば私は助ける事が出来るのか?
声援だけで役に立つものなのか?

次の瞬間、何とかそれをアレクシスは躱す事が出来た。
けれど額には汗が大量に滲んでいて、息も少しあがっている。

「ああ、寝不足な上に、最近は真面に鍛錬も出来ておりませんでしたので、随分腕に来ている筈なのに、あんな失笑な言葉を並べ立てるものだから、小手先を再び突かれるのです。全く……」

手厳しいリレントさんのため息交じりに呟きに、苦笑いが漏れる。

「あ、アレクは、大丈夫なの?」

「ああ、それは大丈夫でしょう。旦那様の現在の練習相手は現役の騎士団に身を置く者達ばかり。あの腕から繰り出される剣を受けかわすのですから、後での筋肉痛は免れないでしょうけれど、おそらくはご自分で何となされる筈です。奥様と旦那様を相次いで亡くされて、一時期は暫く何もしておりませんでしたから筋肉の衰え方も酷いものでしたが、あの日から変わられて、水を得た魚のように、基礎的鍛錬はほぼ毎日再開されておりましたから……」

「あの日?」

「マリエッタ様のお姿を垣間見て、最初の求婚をお決めになった頃よりです。帰宅するなり私に手合わせをしろとえらい剣幕で……。週に一度の鍛錬が、それ以降ほぼ毎日です。以降は目を瞠る成長ぶりでした。あのような笑止な事を言っておいでですが、剣を再び取るようになったきっかけは結局の所、マリエッタ様との件があったからですよ」

「私との……」

「まあ、今となってはそれだけでは無いでしょうけれど、あの頃の理由はそうでした。それが無ければおそらくは騎士団の皆様の前で鍛錬場に顔を出せるような実力も備わっていなかったでしょうし、あのパウウェル殿と親しくなることも難しかった事でしょう。流石にパウウェル殿には一度も勝った事はまだ無いようですが、実力は折り紙付きですよ。慣れない剣の重さと相手に、今は振り回されてはいますが、何とか今をしのげれば、旦那様の事です。やり合う内にある程度は段々慣れて来るでしょう。長引けば長引くほど、この試合は旦那様の有利になります」

「そうなの!?」

長引けば長引くほど、腕が疲れて来て、アレクには不利になるのだとばかり感じていたけれど、どうやらそうでは無いらしい。

剣術についての鍛錬話は、私にも全く寝耳に水の事だった。
でも、アレクシスが私の為に鍛錬を再開してくれたなんて……。
嬉しいッ!

「アレクシスッ、負けないで!!」

「ふん、忌々しい声援だな」

「貴方にはそうでしょうね……ッ。ですが、私には……。何が何でも……勝ち……ますよ!」

そう告げると祖父の懐に、初めてアレクシスが飛び込んだ。

「これは、思った以上の出来だな。手加減は要らぬようだな」

「ご冗談を……。手加減などされて、負けを認める理由を作られるのは迷惑です!」

「口の減らない奴だな……ッ」

今の所は祖父が有利に見えるが、アレクシスだって負けてはいない。虚勢を張りながら、繰りひろげられている二人の攻防戦を、私は固唾を呑みながら、ただ見守っていた。

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~ Comment ~

NoTitle 

おおう。決闘がまだ続くのですか。
アレクも単なる色ボケ男ではないのですね。
ちゃんと武器で決闘できる技量を持っていて安心しました。
おじいさまは血圧上がり過ぎて、血管が破れますじぇ。。。
(ーー;)

LandM 様 

今日は。
もう1話は決闘が続く予定。
以前パウウェルと鍛錬場に身を置いている場面があったと思うのですが、とりあえず剣の鍛錬は出来る時は行ってます。
最近は中々難しいものはありましたが……。
お爺様頑張ってますよ。
おっ、血圧ですか?
微妙に良い所をついているかも(笑)

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