ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《177.中 庭2》

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圧し掛かるように切り付けるアレクシスの剣を、それまでの涼し気な表情を微かに歪めると、祖父が微笑した。

「最近の若い者は軟弱な者が多いと思っていたが、……私の思い違いだったようだな。だが、まだまだだ。オリァーッ!!」

そう告げると、祖父は渾身の力を込めるかのように、勢いをつけてアレクシスの剣を押し退けると同時になぎ倒した。
その状況に、アレクシスの身が横に飛ばされる。

「うわっ!」

「アレクシスッ!!」

私は叫ぶと同時に倒れるアレクシスに駆け寄ろうと足を踏み出す。

「まあ、貴方ッ。何もここまで手荒な事をなさらなくてもッ!」

祖母も私に続けて駆け寄る大勢だったのだが……。

「ッ、来るな!!」

しかし、それをアレクシスが声を荒げて制止する。

「でもッ!」

「これくらい……、大したことは無いッ!」

アレクシスはそう言い切ると、頭をもたげ足下を少しふらつかせながらも、ゆっくりと立ち上がる。
続いて両足を踏ん張ると、地の感触を確かめているのか、何度かすり足をしている。更に今度は両腕を肩からゆっくりとし始めると、大きく頷いた。
一体何をしているのか?

「……アレクシスは、何をしているの?」

今一つ目の前に繰りひろげられている不可解な行動を理解できずにリレントさんに問いかけてみた。

「あれは、足の運びの確認……、でしょうね。最近あの型の練習はしていなかった筈ですから」

「あの……型?」

「はい。おそらく、やる気になったのでしょうね」

リレントさんがそう告げると、アレクシスが祖父を見据え、ゆっくりと微笑した。
何だか……、目つきは今までになく鋭い。
私は思わず、その眼光に息を呑んだ。

「やだ……。ぁ……、アレ……ク?」

アレクシスはこちらを見向きもしない。
それどころか今度は、隣に居たリレントさんまでもが笑みを浮かべている。

「さあ、そろそろ始まりますよ。あの目つきは……」

「えっ!?」

「高みの見物と行こうではありませんか。旦那様の動きを、しっかりと見ていてください」

リレントさんからそう告げられてアレクシスに再び目を向ける。
すると、剣を構える型が変わっていた。
今までは右手を上にして両手を添わせるように剣を握っていたのに、今度は左寄りに剣を少し斜めに持ち替えて、何だか変わった体制になっている。

「……あの変な……あまり見ない持ち方は?」

「変とは酷いですね……。ですがまあ、一般的にはあまり使用できる者の多いと呼ばれる類のものもは無いですからね。仕方のない事ではあるのですが……」

リレントさんの何処か含みのあるようなその言い方は、何処か考えさせられる。
いや、誤魔化されたのか?
今までと違う、何かが始まる。そんな予感がした。

「ほう……何をするかと思えば、これは大きく出たものだ。そんな真似事の構えで何が出来ると言うのだ? 笑止だな」

どうやらアレクシスのとった変な構えが何であるのか、祖父には分かっているらしい。
そして分かった上で、アレクシスに出来る筈が無いと何処か決めつけているようだ。

「腕力では勝てぬと見極めて、血迷ったか。哀れだな」

続く祖父の挑発的言葉に、アレクシスの顔つきが更に変わる。

「……誰がッ!!……」

アレクシスの声は低く地を這うようで、それでいてとても鋭い。
見ているこちらも思わず力が入り、身構えてしまう程に。
そしてゆっくりと顔を上げると、言葉を口にする。

「……貴方に多大なご負担をかける事は不本意ですが、ここまでされては致し方ありません!」

そう告げると、アレクシスは大きく息を吸い込み、何か精神統一でもしているのか、ゆっくりと目を閉じる。
何も語らず、黙り込んでいると言うのに、今までとまるで異なる気迫が漂っている。
それは、ここに居る誰もが感じているに違いない。

「まさか……、本当に出来るのか?」

「…………」

アレクシスは何も語らない。
するとリレントさんが言葉を添える。

「疑うのならば、試してみられますか?」

「…………」

祖父は相も変わらず無言のままのアレクシスをじっと見据える。
そしてゆっくりと言葉を吐き出した。

「良いだろう。受けて立つ!」

そう告げると、アレクシスは静かに微笑を浮かべる。
どうやら話は聞こえているようで、身を低く構え直した。

「始めッ!!」

匙は投げられた。
リレントさんの掛け声と同時にアレクシスはすり足ぎみの体制のまま、急に走っているかのような俊敏に動きに転じた。
その速さは、おそらく今までの二人のペースの何倍にも匹敵するものだろう。
祖父はその動きに、最初は何とかついて行っていたものの、次第に疲れて来たのかついていくのがやっと言う感じだ。更には時間の経過とともに剣を繰り出す事すらままならなくなり、次第に翻弄されているのは目に見えて明らかだった。

「凄いわね……。あれは、何と言うものなの!?」

「【左奧の剣】と一般的には呼ばれているものです。我が生家であるルーカス家に伝わる極意とでも申しましょうか。私がお教えして旦那様が、唯一極める事が出来たと思える手法の一つです」

「手法?」

「地を擦るような感覚で足を進め、それでいて中心はずらさない。しかもあの動きです。背の高い方には、瞬時に相手の動きを見極め次の手を繰り出すことも容易には難しいでしょう。それに状況に応じああやって体制を変えられては、相手は剣を繰り出す度に視点もずれて行くので変えなければならない。かなり面倒になる筈です。体力も消耗しますが、思考も削がれていくのは必須。同じ型と手法を取得している者以外で対等に戦う事はかなり難しいと思います」

「……何だか良くは分からないけれど、アレクシスは今凄く大変な事をしているのね……。お爺様の動きが今までと全然違うわ。出遅れている感じがするわ」

「はい。この技に瞬時に対応しようとするならば、型と手法を得ていない者の一番の対策は、身軽というものが必須条件となりますので……」

「では、お爺様には……」

「一番不向きの技の一つと言えます。おそらくは、最後までついてはこられないかと……」

「そうなの!?……」

私は、少しだけ祖父の事が心配になって来る。
アレクシスには勝って欲しいとは思って居てるけれど、お爺様にも怪我等は決してしてほしくは無い。

(お爺様……)

そっと心の中で祖父の名を口ずさんだ。

アレクシスはその後も態勢を何度か変化させながら、更に細かい動き組み入れながら時折鋭い剣を繰り出している。初めてお爺様を振り回しながら……。
私は胸の鼓動を早くさせながら、二人の動向を固唾を呑みながら見守り続けた。

そしてどれくらいの時間が過ぎた頃だろうか?
祖父の巨漢が急に左右へ大きく揺らいだ。

「お爺様ッ」
「あなたッ!」

足が縺れているのか、やがて自らの巨漢を支えきれなくなったのか、祖父はその場によろめくと座り込んでしまった。

「……まさか、このようなものを身につけていたとはな……。話には聞いてはいたが、これ程までに足に負担をかけるものだとは……」

「私など、まだまだです。後少しでこちらの体力も限界でした。その御年で大したものです。感服いたします」

そう告げるとアレクシスは祖父に手を差し伸べる。
祖父は小さく苦笑いを浮かべると、そっとその手を取って立ち上がった。
しかし、その途端に、膝が笑って崩れそうになる。それを更に瞬時にアレクシスが手を貸した。

「済まないな。……もしかして、これも計算か?」

「さあ、如何でしょう?」

アレクシスは苦笑いを浮かべると、そっと視線を外す。
照れているのか本心なのか?

「フッ……。食えぬ奴だな」

「お褒めに預かり光栄です」

深々と頭を下げながらも笑顔を見せ、涼し気にそう告げるアレクシスの額には、大量の汗がしたたり落ちていた。

これで、話は解決に向かうことが出来るのだろうか?
少なくとも、祖父のアレクシスに向けられる動向が、少しだけ緩やかになったと感じられるのものが、錯覚では無いと信じたい。

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~ Comment ~

NoTitle 

おお~~祖父さまには認められたようですね。
(*´ω`*)

祖父さまも血管が切れることなく終わったようで何よりです。
何事も平和が一番ですね。

LandM様 

今晩は。

状況的にアレクの事を譲歩せざるを得なくなってしまいましたね(笑)
とりあえず器量的なものは認めてはくれたようなので、これで話が全て上手く行ってくれればいいですが……。

でも、これで先はだいぶ見えたかな?

いつもコメント有り難うございます。
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