ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《178.発 言1》(リレント視点)

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逸る気持ちもある筈なのに、ここで機転を利かせ譲歩する姿を見せたのは旦那様の良い所だ。
疲れ切った前男爵を、旦那様は無理を強いて話し合いの席に直ぐにつかせようとはしなかった。
ねぎらいの言葉をかけられると、寝台までお連れすると宣言をされた。
だが、前男爵はそれを否定する意思を告げる。
やはりこれは旦那様の手をこれ以上煩わせ、借りを作りたくはないと言うおつもりなのだろうか?
或いはついにお二人の事を認めて下さると言う前兆的表れなのか?

「このまま応接室で良い。少し休めば……、問題は無い」

告げられた言葉に、全く悪意は感じられない。
良かった、これは一歩前進したと見ても良いだろうと胸を撫ぜおろした。

しかし、それにしても見上げた御仁だ。
この御年で、不十分に放たれた型の入りではあったが、あの【左奥の剣】を真面に受けた直後にこの気力は天晴だ。
現役の騎士でも翻弄されるこの技を、今でも騎士道の精神を貫き、こちらが感心させられるほどの粘りを見せた。
この調子だと回復も通常よりは早いだろう。
【左奥の剣】を受けた後の対処法は、特別には無い。安静にひたすらじっとして過ごす事が一番だ。神経の一部が一時的に麻痺しているだけなので、その後の後遺症も全くないのだが、足腰が立たず歩けなくなるものだから、やはり家族ともなればそれでもかなり心配をするようだ。
ここにも例外に漏れずに心配しすぎる夫人の傾向が見受けられる。

「何を言っているのですか、あなた。もう若くは無いのですから、ゆっくり休んで明日にでも改めてお話を伺えば良いではありませんか! 貴方たちも今日はこちらにお泊りなさい。直ぐに部屋を用意させるから。良いですわね、あなた」

「……勝手にしろ」

ぶっきらぼうだが、話をする気にはなってくれたようで、それは良かった。それは良かったが、明日では些か旦那様にとっては問題が生じる。
旦那様は、今夜夜半過ぎには遅くともこちらを発たなければならない……。

「しかし、大げさな奴だな、これしきの事で休んでいろとは。全く……」

夫人の心配振りに、やや前男爵は呆れ顔のようだ。

このまま滞在され話が進めば、この調子ならば少なからず突破口を見出すことが出来るかもしれない。しかし現状況でそれが許されない。旦那様には不運としか言いようがない。
だが、決断されるのは旦那様だ。
執事のハンデルが色々言うかもしれないが、領民を重んじるべきか、結婚の承認を得る事を優先させるのかは……。

「旦那様……」

私は旦那様に如何するつもりなのかと問いかけるつもりで声を掛けた。すると……。

「せっかくのお申し出ですが、私は、本日は一旦失礼させて頂きますので……」

そう告げると旦那様は深々と頭を下げた。
心情的にはここに残り、直ぐにでも結婚に向けての話を進めたい所だろう。
けれど旦那様はそれをなさらなかった。
今後の事を思えば、領地の事を蔑ろにするべきでは勿論無い。一度領民からの信頼を失えば、それを取り戻すことは中々容易な事では無い。
加えて領主として課せられたものがどれだけ重いかと言う事を、色ボケしているように見えても良く理解していらっしゃる事に安堵した。
柔らかな微笑を浮かべる旦那様の姿に、これは領地の関わり事を早々に片づけ、さてはこの地へ数日中には再び訪れるおつもりなのだろう事を示唆した。
今回の件に関していえば本当は旦那様のスケジュールを思えば、休暇の後半こちらに訪れる事が能率的には良い事だった。けれど、当初の旦那様にはそれを待つほどの余裕が無かった。マリエッタ嬢との婚姻へ向けての先が見えない事に、おそらく焦りを感じておられていたのだろう。そのお気持ちは十分に理解できるものだ。
旦那様はそれ程までにこの婚姻を熱望されていらっしゃるのだから……。
当初は無謀とも思える旦那様の決断だったが今にして思えば今回の訪問は決して無駄なものでは無かった。それなりの成果は見て取れる状況に、私は安堵している。

「まあ、遠慮はいりませんのよ侯爵。剣で主人は負けたのですから口を出す権利はありませんし……」

「おいッ!」

「だって負けは負けですもの。ねっ?」

その問題となっている御仁は、可愛く微笑む夫人の姿に諦めとも思えるようなため息を漏らしている。
どうやら前男爵は夫人には、基本的には頭が上がらないらしい。
愛する者に弱い所はどうやら旦那様と一緒のようだ。
状況的に見て、夫人は依然として孫娘であるマリエッタ嬢の事を思い、旦那様のお見方してくださる様子。
かつてのお二人も婚姻までは、随分と大変な道のりを踏まれて来たと聞く。
もしかすると自分たちの苦しかった状況を思い出し、応援してくれているのかもしれない。ならば心強い限りだ。

「いえ、そのような理由では……。実は領地にて所要がありまして、戻らなければならないのです。慌ただしくて申し訳ないのですが、この件は近日中に改めて再び伺わせて頂く所存でございます。また、状況によりましては、何度でも通わせて頂くつもりでおりますので、その際は宜しくお願い致します」

「まあ、そう言う事ですの? 残念だわ。今夜は色々とマリエッタとの馴れ初めについても、お話をお聞きたかったのに……」

「いえ、それは……」

旦那様、そこで照れている場合ですか!?
それに夫人、それはやめておいた方が……。
旦那様の惚気は箍が外れると半端ありませんし、おそらく語らせれば、そのうち二人してラブラブモード全開で、呆れかえる事必須。前男爵は不機嫌になると思われますが宜しいでしょうか?

本当に旦那様のマリエッタ嬢に対する執着は、既に周囲の理解を超えていると私は理解している。
あれは溺愛等と言うありふれた言葉などでは既に語りきれないものがある。等と思っていると……。

「では、私も帰ります」

お嬢様が爆弾発言を投下された。

「マリエッタ!」

「だって、アレクシスと離れていたく無いんですもの。それに私たちの事を反対しているお爺様の所に私一人だけで留まる事なんて出来ないわ。私は何があってもアレクシスと一緒になりたいの! 認めて下さらないお爺様の邸に1人で留まる訳にはいかないのッ」

「マリー……」

ああ、旦那様。
ダメですよ。そこでそんな愛おし気な眼差しでマリエッタ様を見つめられてはッ。
周囲の目と言うものを考えられて下さいッ!
それこそ、今度こそ前男爵様が不機嫌に……。

「…………」

気になり慌てて前男爵様に目を向けてみれば、案の定無言で視線を反らせている。心なしか表情が歪んでいる気がしないか?
私はその様子に力なく項垂れると、ため息をつきながら旦那様を横から目線で仰ぎ見た。

「旦那様……ッ」

せっかく前男爵の前での好感度……と呼べる程のものでは無いかもしれないが、印象が回復傾向のこの時に下手なフォローは命取り。
旦那様に如何この状況を打破するおつもりなのかと問い正すような視線を向ければ、思いもよらぬ答えが返って来た。

「あっ、いや。マリーは、ゆっくりすると良い」

(えっ?)

まさかの旦那様の発言に、私は慌てて頭を擡げた。

「アレク、でもっ!」

「私の事は気にしなくても良い。直ぐに迎えに来るから」

「アレクシス……」

「実は現在城での務めの方は振替で長期休暇中の身なのです。ただ長くに留守をしていた関係で領地の件で色々と片づけなければならない事もありまして、そちらがあと数日かかるのです。片付き次第休暇中に必ずこちらへは再び参りますので、それまでマリエッタの事、よろしくお願いいたします」

「ええ、それは勿論……」

「リレント、後の事を頼めるか?」

「旦那様……」

旦那様は後方で待機していたヨハンナ殿に目を向けた後、私に声を掛けられた。

「宜しいのですか? ですが……、まさか旦那様はお1人で戻られるおつもりなのですか!?」

旦那様の勇気ある決断には感服するが、本当にこれで良いものなのか?
確かにこれで平穏が保たれるかもしれないが……。と安堵したのも束の間、旦那様の言葉に、関心を覚えるのは10年早かった。

「当然だ。大切なマリーを置いて行くのだ。信頼のおける護衛はつけさせて貰う」

私に任せお1人で帰られると言う志はご立派です。
ですがその色ボケ発言……、些か角が無いですか?
と思っていれば、旦那様の隣で野太く低い声が唸った。

「……私では、不相応……とでも言いたいのか!?」

前男爵が不服そうに意義を申し立てる様子に、私は再び頭を抱えた。
元とはいえ騎士の称号を持つ者を前にして、例え負傷しているとはいえ今の発言は確か失言だと思う。

「いいえ、そう言う訳では……。ですが【左奥の剣】は技に捕らえられると、半日は身体的不自由を生じます。ですから、無理をされるのはと思った次第で……」

「敗者に情けか?……」

「まさか! そのような事は夢にも思ってもおりません!」

旦那様のお優しい助言に対しても、この卑屈な発言とは如何したものか……。
やはりこのお方も、かなりのヤキモチ焼きなのだと……。何処か旦那様と共通する何かを持ったお方なのだと心で感じながら、現状況を整理する事にした。

ここで前男爵に旦那様が不快を買うのはかなり不味い状況となる。
ならば旦那様がこちらのお屋敷を去る前に、その事を払拭しておかなければならないのではないのか?
私は考えに考えて……、旦那様の恥をここで曝すことに決めた。
最初は不快を覚えられるかもしれないが、これで前男爵の不敬を拭えるのならば、旦那様にとっても何れはそれも安いものとなるだろう。

「違いますよ、旦那様。半日ではありません」

旦那様の発言に、私は慌てて修正をかけた。

※1000文字程加筆し修正をかけました。本編に大きな違いはありません。(8/17 2:55)

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~ Comment ~

NoTitle 

困難があるからこそ恋は燃え上がるものなのさ!!
・・・ということを教えてくれる小説ですね。
まあ、困難だらけということもあるのですが。
こういう困難に打ち勝つ恋だと実りも大きいものになるでしょうね~~。

LandM様 

今日は^^

本当にこの二人には困難が付きまとってますね。
で、次回は多分意外な方向性に向かうと思います。
読んだ方が最後の方で
「はあ!?」
と思ってくれることを密かに期待してたりします。
本当はそこまで一気に載せたかったんですが、多くなりすぎて分けました。
でも、私的にはお話は後退していないので、このまま終盤街道突き進む予定です。
いつもコメント有り難うございます。
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