ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《179.発 言2》(リレント視点)

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旦那様は私を訝し気に見つめると、その言葉の真意問うような言動をされた。

「何を言っている!? お前が言ったんだぞ! それに【左奧の剣】で、私もあの時確かに半日は身体的自由を奪われたッ」

旦那様は数年前、ルーカス家の奥義の一つ【左奧の剣】取得の為の稽古の折に、何度となくこの技にかかった事がある。稽古をつけるのは休日前夜といつも決まっており、翌日はいつも昼前まで動けなくいた。よって休日に行われる領地の視察などは、あの頃は決まって午後から行う事になってしまっていた。
だから旦那様の告げられる見解は通常ならば最もなのだが、今回は流石にそう言う訳にはいかない。
それと言うのも……。
いや、今回このような場でこの事を公にすることは本来不本意なのだが、前男爵の蟠っている想いを払拭させ納得して貰う為には、私が重い腰を上げ、ここは旦那様に多少の恥をかき飲み込んでもらう他無いと判断を下した。

「ですから、それは技が完全に決まった時の場合です!」

「なッ! ……お前は、私の技が不完全だったとでも言いたいのか!?」

「いいえ、完全とは言い難いですが、一応甘くはありますが何とか成功には至っておりますのでそうまでは申しません」

「……後味の悪い良いようだな……」

「申し訳ございません。ですが良く考えてみて下さい。相手の足を止め崩すことに成功をした。これは【左奧の剣】の奥義を極めた者にしかできない所業です。ですが……」

「……ですが、何だ!?」

思わず告げようとした言葉を言い淀んでしまう。
だが、『今告げなければ!』と心を奮い立たせた。

「旦那様。貴方は最近忙しさにかまけて、私がお側に居ないのを良い事に、王城での鍛錬を怠っていらっしゃいませんでしたか?」

「それはッ! かまけていたと言うのとは違うだろう!? 私は寝る間も休む間もなく倒壊寸前の橋の補強と改修工事の為に、このひと月以上働き詰めで居たのだぞ!」

「分かっております。王陛下よりも労いのお言葉を頂きましたし、私も旦那様の今回の行いを誇りに思っておりますし、感服致しております」

「ならばッ」

「足さばきの間合いが、2ミリ程ズレておりました」

「はぁっ!?」

「……やはり、お気づきになっておられなかったのですね。全く……」

「……少し違和感はあったのだが……、そのせいだったのか?」

旦那様は納得されると、先程までの訝し気な表情からうって変わり、その事を真摯に受け止めると柔軟な姿勢を見せた。
これは見ている者にとって旦那様に高印象を与えるものとなるだろう。

「それから剣を繰り出す角度は途中で修正をかけていたようですが、あれでは完全体とは言い切れません。ルーカス家の奥義は身を鍛え続けてこそ威力を発揮できるものです。選択肢が他に無かったのでしょうが、そんな恥ずかしい状況でルーカス家の奥義を私の前で曝さないでくださいッ」

「面目ない。以後、肝に銘じておく……」

「当然です!」

全く……。
こんな事位、言われなくても気付いてくださいよと思っていたら、旦那様の横から強い視線を感じた。

「……おい……」

しまったぁ――っ。
少しばかり私的な事を言いすぎてしまったか?
それに通常従者と主の間柄で、このような馴れ合い的発言が好ましくない事も重々知っているのに、失態を冒してしまった事を私は直ぐに後悔した。
つい、旦那様と話していると乳兄弟の延長からか邸と同じような感覚に陥ってしまって……。
いや、ここで言い訳をするのは止めよう……。

「申し訳ございません。お見苦しい所をお見せ致してしまい……」

前男爵の方に向き直り、御前での非礼を深々と頭を下げてお詫びすると、思いもよらぬ返答が返って来てしまった。

「何を言っておる!? そんな事よりも、お前はグラッセ侯爵の従者であろう? その従者が主に対し……何故【左奥の剣】を極めた指導者のような発言をしているのか!?」

「……いえ、それは……」

私が言い淀み目くばせを送ると、旦那様がゆっくりと口を開かれた。

「彼は私の従者であり、乳兄弟なのです。それにルーカス家とは些か曰くがありまして……」

「ほーぉ、ルーカス家に弟子入りを許された経験でもあるのか!?」

通常そのように受け取るのが普通だろう。
だが、この前男爵の目に見えて嬉々としている、この表情は何なのか?
どうやらこの話に興味を覚えているようだが……。

「経験と言いますか何と言いますか……実はルーカス家は彼の生家です。10歳で養子に出されるまであの家の4男として育ち、その後」

「何と! あのルーカス家のご子息がこのような所に……」

旦那様の話の途中で、前男爵が話の口を折った。凄い勢いで……。
何だかとても嫌な予感がしてならない。

「いえ、もう子息では……」

「いや、もっと話を聞かせてくれ! ここで立ち話も何だ。応接室で話をしよう。おい、早く連れて行け。茶の用意は未だか!?」

「…………」

旦那様は無言で前男爵を見据えると、肩を貸しながら移動を開始する。
何なんだ? 前男爵のこの身の変わりようは……??

もしかして、前男爵は、如何言う訳か今度は旦那様より私の方に興味を覚えられているのか?
それって不味くないか!?

「旦那様……」

「…………」

ゆるゆると、旦那様の方を向き直ると、旦那様も如何やら呆れ顔のご様子だ。

しかし、この状況は喜ぶべき事なのか如何なのか!?

「はぁ――っ、……あなたって方は……。全く……」

夫人も深いため息をつくと、呆れ顔で夫である前男爵を見つめていた。


応接室の席に再び通されると慌ただしく侍女が呼ばれ、茶器に茶が注がれる。
如何やら、夫人の様子から察するに、前男爵はルーカス家に並々ならぬ思い入れがおありのようだ。
確かに騎士やそれなりに剣を嗜む者からは、ルーカス家が神聖化されているのは知っているが……、まさか席に着くなりこのような爆弾発言が投下されるとは誰が想像しただろうか?

「リレント殿と言ったか?」

殿!?

「はい、グラッセ侯爵が第一従者のリレント・モルシェードにございます」

「孫娘の相手がお主ならば文句なく、直ちに結婚を認めてやるのだが、興味はお有りか?」

「はあ!?」

なっ、何を突然言い出すのか!? この御仁はッ!!!!

「えっ?」
「なっ!!」
「お爺様!?」
「あなたッ!!!」

私の間抜けな声に続いて、旦那様とマリエッタ様、そして夫人の呆気にとられた声がした。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。

現在、複数のお話を連載されてたり賞の申し込みを行っておられてお忙しい中、やっと事態が動いた?ってなったので感想を書きますね。


まさかのここにきてアレクよりリレントさんの方を気に入ったじーさん。
最初は孫娘思いが暴走したからと思いましたが、とうとう耄碌したかこのジジイって最初は思ってしまいました。

忙しさにかまけてて鍛錬を怠っていたとリレントさんはアレクに言ってますが、多分、マリーのことで頭いっぱいなところも鍛錬に集中できなかった理由だと思いますよ(笑)

しかしあれだけ自分の実力を認めさせるためにお爺様に手合わせして頑張ったのにその努力差をあっさり従者に抜かれてしまうなんて。
アレクってほんとうにアホな所がある上に運も悪い。

まあ、そこはマリーがフォローしてあげなきゃいけませんね。
マリーだってリレントさんは頼れる人だけどどう頑張っても男としては見てないでしょうし。

しかしお爺さんのリレントさんへの態度、アレクとは全然違う(笑)
マリーにすでに手を出してしまっているのもあるんでしょうが。
ルーカス家に何らかの思い入れがあるのか次回の説明が楽しみです。

yama 様 

今日は。お久し振りです。

本当に更新に時間がかかってしまい申し訳ありません。
話は頭の中に出来上がっているので、ほんとうに時間さえあれば毎日何かを更新できるのですが、とりあえず出来る範囲で頑張りたいと思っています。

私も自分で書いていて、はあ?お爺様ここまでするか!?と思いつつ筆の進むまま書いていたらこうなりました(笑)
お爺様の過去の経緯を思えばルーカス家に憧れを抱くのも致し方ない事なのですが、これはささっと書いてしまおうと思ってたのですが、もう少しは分かりやすく書く事にしますね。
ただ、お爺様の発言に納得する者は誰一人としていないでしょうし、マリーも黙っちゃいないでしょう(笑)
まあアレクが仕事だけでなくマリーにかまけていたことは言うまでもありませんがね^^;

次の更新までお時間を頂く事になると思いますが、引き続き楽しんでお読み頂ければ幸いです。
いつもコメント有り難うございます。

NoTitle 

ふうむ。他の人を気にいってしまった爺。
もはや耄碌してしまったじぇ。。。

こんな人の妄言はかなぐり捨てて、さっさとアレクと結婚してしまえばいいんですよ。本人同士が。(´_ゝ`)

LandM 様 

こちらにも有り難うございます。

本当にこの爺さん……。
でも、本当は凄く単純で分かりやすい人なんですけどね(笑)
もう、周囲は引きまくりなの見え見えですし、リレントが頷くはずないし、マリーもこれには黙ってないでしょうし、アレクは如何するんでしょうね?(笑)
とにかく爺の戯言なので、出来る事なら聞き流してスルーしておきたい所なのでしょうが、それも出来そうにないので頑張って貰いたいと思います^^

いつもコメント有り難うございます。
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