ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《181.念 願1》(アレク視点)

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リレントの発言に、見事に粉砕された祖父君は、深いため息をついている。
少し離れた場所で周囲の動向を見守っていた夫人は、祖父君の許へと近寄ると、そっと肩に手を置いた。

「あなた……、もう良いじゃありませんか。恩義を忘れぬことこそが忠義だと、いつも仰っていたではありませんか……」

「そうだな……」

詳しい経緯は分からないが二人の様子から、おそらく祖父君は過去に何らかの形でルーカス家に深い恩義を感じており、敬愛を覚え執着していた様子が伺える。
だがそれは、心の奥底に長い間ずっと仕舞っておいたものだったのだろう。
それがここに来てルーカス家と関わりのある者の存在を突如目の前にし、昔の感情が蘇り溢れ出してしまった。突発的な行動だったのかもしれない。
貴族や城に勤める者の中には、ルーカス家に多少なりとも恩義を感じる者は決して少なくはない。中でも剣を携わっている者ならば、その思いははかりしれない。

「お聞きしても宜しいでしょうか? その、ルーカス家に対する恩義と言うものについてを……」

私の問いに祖父君は、最初は少し驚いたような表情を浮かべられたが、ためらいながらもゆっくりと頷いてくれた。

「……昔の事だ。まだ若い頃の……。妻との未来すら、まだ見据えられずにいた頃の話だ」

「あなた……」

祖父君に寄り添う夫人が柔らかな笑みを浮かべる。

「当時の私達は、二人の想いが固まってからも長い間妻の両親にすら会う事もままならない状況だった。門前払いを食らい続ける日々が続いていて、……たがある方の仲介で、何とか条件付きで会っても良いと言って貰える事となり、その条件を満たす為に私は、惜しむことなく弛まぬ努力を積み重ねて行った」

「騎士の称号を、得ようとなさっていた時のお話ですね?」

おそらく、仲介者とはポリゼベーテ伯爵夫人の事だ。そう思ったが、あえてその事には触れずにいた。

「ああ。やっとの思いで騎士の称号を得、これでやっと想いが叶うと思った……。だが、騎士の称号はあくまで通過点に過ぎなかったと言う事実を、その後更に突きつけられた」

「と、言うのは?」

「認めて欲しくば最低限、娘にふさわしい男になれと言われ騎士の称号を得た……。妻と私は格差婚だ。もとより妻はこんな一介の地方領主に過ぎない男爵家の跡取り風情には及びもつかない程の高家の出だ。良縁も降る程ある中で、何ゆえ娘婿がそんな男爵家の跡取りでならねばならぬのか? 城勤めも叶わぬ相手とは情けないとまで言われ、城に上がる道を模索し、ある方の推薦もあり騎士の道を歩む選択をした」

「確かに貴族の出で、有力者な推薦があれば入隊は容易に敵いますからね」

その推薦人がおそらくポリゼベーテ伯爵夫人であることも推察できた。

「親の地位に関係なく、城勤めの道が開かれる。私は妻を得るために死に物狂いで懸命に努力した。だが、騎士への道はそんな単純で甘い考えであった私を心をも成長させてくれた。騎士の道は知れば知るほど奥が深い。そして私はその道に自らの未来を託したのだ。最初は優柔不断なきっかけにすぎなかったが称号を賜る頃には、騎士の道にのめり込んでいた」

「それで夢が叶い、夫人とのご結婚をされたと言う訳ですね」

「いや……。称号を賜り許されたのは妻との付き合いだけだった。結婚を認めるには更にそれなりの武勲が必要だと告げられた。だが騎士の称号を得たばかりの若造に、簡単に武勲などあげられよう筈もない。そこで私は最短で武勲を得られる方法を模索し決断した」

「今度は何をされたのですか?」

「その年の剣術大会新人戦に参加する事にしたのだ」

剣術大会新人戦とは騎士の称号を得て3年以内の若い騎士にのみ参加が許される新人戦で、それに優勝すれば将来隊長クラス以上の出世はほぼ確実。
世間的にも、武勲の一つとしても十分認められる要素となる大会だ。

「それは、かなりの努力をされたのでしょうね」

だが、確か剣術大会新人戦の歴代の優勝者の中に、祖父君の名は無かった筈……。

「出場を決めてからは昼夜を問わず、死に物狂いで更なる鍛錬に励んだ。優勝を目指して……。その結果、何とか準決勝まで勝ち進んだが、敗退した……」

「そうでしたか……」

「だが、そこに救う神が現れたのだ」

「救う……神?」

なんと大げさな言いよう思ったが、そこは敢て口にはしなかった。
今結婚されているという事は、おそらくは祖父君にとっては正にそういう思いである事なのだろう。

「準々決勝戦で相手と接近した時にのみ、かすかに香る美醜に何故だか力が削がれた気がして……、駄目もとでその事を対戦後訴えてみた。だが相手は優勝候補の一人。周囲の者からは嘲笑われたが、そこでルーカス家者に助けられたのだ。誰もが見破れなかった相手の不正を、ルーカス家の者が見つけ出し、暴き出してくれた」

新人戦における不正事件は、私にも初耳の事だった。
大会の不祥事となるものは、おそらく記述としては外されたのだろう。

「おかげで私は何とか準決勝までは勝ち進むことができた。だが、香りに毒された状況では準決勝戦は真面戦うことすら叶わなかった。ふがいない準決勝戦の戦いに誰もが陰口を叩いていた。私は公衆の批評に酷く落胆してしまった。これでは武勲も何もあったものでは無い。その逆だと……。もう妻との結婚も諦めるしかないのかと酷く落胆していたのだが、大会の表彰の席で思ってもみなかったことが起こったのだ。当時の大会理事を務めていたアルテール・ルーカス殿が準々決勝戦での相手の不正を暴けなかったのは大会側のミスであって、対戦相手全ての者に優勝するチャンスがあった事。更にはあの状況にも関わらず戦う事に対し全く怯まなかった私に対し、粋な計らいを齎してくれたのだ」

「粋な計らいですか……」

「開催事務局は準決勝敗退者である私に、大会特別奨励賞を授与してくれたのだ。それにより、私は救われた。こうして妻の手を取ることが叶う事となったのだ」

「確かに、それはルーカス家に対する恩義は図りしれないでしょうね」

もし、今マリーとの婚姻を許されるきっかけを誰かしらかに作ってもらえるのならば……。
その事を思えば、その気持ちは十分に理解できた。

そして、祖父君が私を中々受け入れようとしない理由も……。
どれ程の想いを貫き、祖父君は夫人を伴侶としたのか。
だから私にも敢て試練を与えようとしたのかもしれないと漠然と思った。

「男爵に課された試練に比べれば、私の与えられたものなどその足元にも及ばぬものかもしれません。けれど、分かっていただきたい。今後どのような試練を課されようとも……、何があろうとも私とて同じなのです。マリエッタ嬢を手放す事など絶対に出来はしない。それ程の強い思いを持ち、夫人の手を取られた男爵にならば、私の今のこの思いは十分に分かっていただけると信じております!」

「…………」

畳みかける私の言葉に、祖父君はただ無言で、何かを考えているようだった。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。


リアルでの事情だったり複数の連載だったりで大変かもしれませんが、それでも少しずつ進めているのは素晴らしいと思います。


まあ、このじじい(もはや敬称とか無しに軽蔑の対象になってしまいそうです)が、ルーカス家に恩義がある理由もわかりましたけど、それこそ、ルーカス家にとってもこの耄碌提案は『自分の自己満足のためにルーカス家を利用し、孫娘の恋を引き裂こうとした』って思われるようなことをしたってことになるんですよね。

まあ、この世界観がどうだかわかりませんけど婚前交渉をしてかつ避妊すらしていないアレクだって必要以上に責める資格はないと思うんですけど(笑)

今のまま結婚を認めてもらっても渋々って感じになりそうですが、力で実力を示した後はどうやってこの頑固じじいの心を納得させれるのかアレクの話術がまた楽しみです。

 yama 様 

今晩は。

有難うございます。本当に少しずつの歩みですが、そういっていただけると有難いです。

確かに、ルーカス家の人間がこの話を耳にしても、全くもって取り合わないですね。
ってか、迷惑な話。かえって嫌われますよ。リレントも呆れてましたし(笑)
まあ、本人悪気はないんですけどね。だから更に始末が悪い^^;

アレクは、多分そんな深く考えてません。できたらできたで都合がいい位にしか多分思ってない(苦笑)
既にマリーが生涯の伴侶であることはアレクにとっては決定事項なので。
まあ、お爺様を必要以上には当然責められませんよね。脅しもどきはわかりませんけど。
ここからはもう、更なる攻めに転ずるのかアレクシス♪
先が少しは見えてきたかな?

引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いつもコメント有難うございます。

NoTitle 

おじい様の恩義は分かりますけどね。。。それは現代とは全く関係ない話・・・なんていうわけにもいかないのがおじい様の感情ではありますよね。感情は感情で吐き捨てて受容して、それからマリーたちの結婚を納得させるしかないような気がしますが。。。私も恩義がある人はいますし、その人のことを無碍には出来ないですからねえ。。。

 LandM様 

今晩は。返信遅くなりました。
お爺様、もう本当に……って奴ですが、もうこうなったら心のままに訴えるしか次は無いですよね~(笑)
とりあえず、話を聞いてもらえる権利は得てますし、アレク、頑張るしかないですね♪
恩をはき違えて、自己満足だけで完結しないようにしなきゃ(笑)

いつもコメント有難うございます。
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