ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《182.念 願2》(アレク視点)

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ひとしきり無言のまま何かを考えていた様子だった祖父君が、大きなため息を一つ零しながら言葉を吐き捨てた。

「……全く……。何の因果か……」

因果……。
確かに、祖父君からしてみれば、私たちの今の状況は、因果と呼ぶに相応しい。
だが、同時にこの時私は確信した。私は、きっとこの祖父君と分かり合えると……。

「率直にお聞き致します。私はマリエッタ嬢の伴侶として、本当に認めるに値しない男でしょうか?」

「……それは……ッ」

祖父君の言葉が詰まる。

「仰って下さい!」

「今の……。マニエール家の現状を考えれば……、もはや何の権限も持たぬ私が、むやみに口を挟んで良い事なのかと思っているのは確かだ」

「では、この状況が、男爵が引退なさる以前なら、許していただけたと?」

「うぬぼれるな」

「有難うございます」

「変な奴だな。私はまだ署名をするつもりは無いのだぞ。マリエッタの心が婚約者にないことは認めてやってもいいが、今更こちらの都合で身勝手な真似をしてはドワイヤル家に恥をかかせる訳には行かぬからな。ドワイヤル家は、息子の恩人でもあるのだ」

その話は、以前マリエッタからも聞いたことがあった。
今となってはそのこと自体、胡散臭い話ではあるのだが、それは今自分がこの場で話すべき事柄ではない。

「ですが、その仰り様は、ある程度は認めて頂けた……、という事ですよね?」

「……口の減らない奴だな……」

「誉め言葉と受け取っても?」

「勝手にしろ」

「そのお言葉は、今の私にとって、とても励みになります」

「ふん!……書面にはサインはせぬぞ。マリエッタの話を信じない訳ではないが、息子の話も聞かずに、勝手な真似は出来んからな……」

「お爺様ッ!、ここまで来て、お父様をまだ擁護なさるおつもりなの!?」

「違う! 擁護しようなどとは思ってはいないが、一方の話を一方的に信じ、もう一方の話を聞かぬのは、私のポリシーに反する」

内心堅物だと思いながらも、その言葉には好感を持てるものがあった。
だが、こちらがそれを聞き入れてやる必要は無い。
こちらにはこちらの都合と言うものがある。

「知らぬは、親ばかり……と言う状況ですね。ご存知ですか?ご子息は別の意味であなたを裏切っているかもしれないのに?」

「……何の話しだ!?」

祖父君の少し怒りを含んだような不機嫌な表情。そこには何処からも不自然さは感じられない。

良かった。例の件におそらく関りは無いであろうと思いながらも、祖父君の不機嫌そうな表情に安堵した。
もし、例の鉱石の件にマニエール男爵が手を染めていれば、マリエッタにとって、それは大きな痛手となるだろう。最悪領地は没収。マニエール家の存続も怪しくなるやもしれない。
その時、マリエッタには私以外にも支えになる人間が一人でも多く傍にいてくれることが好ましいと私は思っている……。
勿論、まだ事件は未解決。マニエール男爵が関わっていると限らないが、状況から言って黒に近いグレーである事は確かだ。
だが、ならば、今から自分がしようとしている事への効果は、純粋に得られる筈だ。

「アレクシス?」

心配そうに私を見あげるマリエッタの姿。

「いえ……。申し訳ありません。言葉が過ぎました……」

私の言葉に、マリエッタは安堵するような表情を見せた。

「うむ。今回のマリエッタの問題については……、息子の気持ちが十分に理解できるからな。あ奴は、マリエッタを手放したくないのだ」

「娘を持つ父親は、そうなのでしょうね。肝に銘じておきますが……」

「……何だ? まだ何かあるのか?」

今の反応を思えば、これから自らが取ろうとしている手段は、おそらく祖父君に、かなりの衝撃を齎す事になるだろう。
ならばその前に、荒治療とばかりにそれ以外の方向性で、別の衝撃を与えれば、或いは楽になるのではないかと思い立ち行動に移した。

「いえ。マリエッタ嬢は、既に私の子を孕んでいるやもしれませんけれど、それでも他所に嫁がせる気なのかと、漠然と思ったものですから……」

「!!……お前ッ!!」

「まあ!」

「ア……、アレクシスッ!?」

慌てふためくマリエッタの表情も愉快だった。
気付いてないかもしれないけれど、最初に告白に近い言葉を口にしたのはマリエッタなのだけれど……。

先のマリエッタの言動で、おそらく祖父君は我々の関係を既に示唆していたであろうが、こうもはっきりと告げられては、その衝撃ははかり知れない所だろう。
だが、知られたのであれば、そのことはその事として、これは大いに利用させて貰うべきだと私は作戦を変えたのだ。
この方が考え方としては合理的だし、おそらく時間も短縮できる。
おまけに突きつけられた現実を、おそらく容易に捕らえ理解することも可能なように思われた。

私の思惑通り祖父君の表情は、みるみるうちに怒りが満ちた表情へと変貌を遂げて行く。
傍にいる夫人は驚いたように瞳を見開きながらも口元を綻ばせている。
そして当のマリエッタはといえば、少し間の抜けたような驚きに満ちた表情を覗かせながらも、真っ赤になりながら自らの腹部に目を落としていた。

「ぉ……、おまえはーーっ!!」

やがて怒りに満ちていた祖父君が声を震わせながら拳を握りしめると、その矛先が私に向けられる。
私はこの時をとばかりにその腕を手に取ると、すかさず1通の封書を握らせた。

「なっ!??」

祖父君の、振り上げられた腕がぴたりと止まり固まる。

「何と申されても、見ての通りの封書ですけれど?」

「それは分かっているッ! ……だっ、だから、これはなっ、何なんだッ!!」

祖父君はこの封書を何と思っただろうか?
医術師の妊娠を示唆させる診断書とでも思っただろうか?

「調べられた全ての状況がそこに記されています。それを読み、今後のご判断をお決めください」

私は涼やかにほほ笑むと、リレントと視線を合わせた。
リレントは私の行動に、小さく苦笑いを漏らしていた。

祖父君は握らされた封書を下へ降ろすと、震える手でゆっくりと封を切る。
その心境には同情を禁じ得ない。
私はずっとこの封書を手放すタイミングを見計らっていた。
書かれている内容が内容だけに、読まれれば祖父君が大きく落胆されるのは目に見えていた。だからそれを少しでも半減させる手は無いかとも考えていた。
それに幾らか話は前進しているようには感じられるものの、まだまだ状況的には優位とは言い難い。その時にこそリレントより受け取った駒となる封書が生かされる時だと思っていたから……。
はっきり言って、これは博打に近かった。
その途中で祖父君が、手が付けられぬ程切れたら終わりだった。
だが、やっと状況的に、ここまで進める事が出来た。
おそらくこの封書の内容さえ読み理解してもらえれば、私との婚姻を認める認めないの有無にかかわらず、マニエール家とドワイヤル家のとの婚約成立は立ち消えるだろう。
婚約に対する異議申し立ての書類も実は同時に持参はしている。
勿論婚約申請書に名を記してもらえるならば、それ以上のものは無いのだが、多くを望んだ所で、それは贅沢と言うものだろう。

今はそれだけが望みだった。

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~ Comment ~

NoTitle 

・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
もう何もかも面倒くさいから駆け落ちしちゃえばいいんじゃないの~~?
・・・と素朴に思ってしまった。


まあ、ヨーロッパではこの辺は厳格ですからね。
親や祖父母が納得しないと結婚させないというのはカトリックの信仰と一致しますからね。現在のイタリアと近い考え方ですね。

LandM 様 

今日は^^

本当に逃げられれば、とっくに逃げてるでしょうが、地位的に逃げられないので何とかしようともがいているが、おそらく認められなくても囲うのは必須(笑)
でも、この場面も、次かその次くらいにはやっと解決予定なので、しばしお待ちください^^

毎回書けてたら、絶対に今年中に終われたと思うんだけど、私の中では後10話以内に終わる気でいるんですが、ね?
如何だろう……。

いつもコメント有難うございます。
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