パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第11章5》

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公爵が退出した後、話を聞き慌てて駆けつけてきた初老の侍女頭が、ライサンドを手引きした侍女の腕を引き摺るように、無理やり何処かへ連れて行こうとしていた。

「お話を聞いてくださいッ。私は……」

侍女は、潤んだ瞳を何とか見開くと、自らの正当性を訴えようと必死になっていた。
だが惨事が公になった今、その主張が正当化するとは誰の目から見ても思えなかった。

「……待って……」

だがそれを、弱々しい蚊の鳴くような声で、引き止める者がいた。

「何処へ連れて……行くの?」

まだ腰に力が入らず、一人で立つ事も出来ないローレライが、ゼロに支えられたまま懸命に声を発す。

「この者には、即刻荷物を纏めて出て行って貰います! お客さまのお部屋に何人であれ他者を引き入れるなんて言語道断です!」

「そんなっ、……でも私は本当に、ライサンド様からッ……」

「話にならないわね。あなたが今お仕えしているのは何方なの!?」

「……サンドラ様です」

「そのあなたの口から、開口一番ライサンド様のお名が出ること自体、由々しき問題なのです! そんな事も分からないなんて」

「ぁっ……、私……っ」

やっと自らの過失に気付いたのか、侍女の瞳からは再びはらはと涙が溢れ出して来る。
そしてライサンドを手引きした侍女は、侍女頭に連れられて力なくゆっくりと歩き出した。
だがローレライは、それでも事を簡単に終わらせようとしなかった。

「……悪いのは、その者では……ないわ」

ゆっくりだけれど、確実な言葉で喋ろうとローレライはゼロに縋り付きながら必死に言葉を紡ぐ。
まだ恐怖で震えているのか、言葉は途切れ途切れだ。

「お嬢様、お情けは無用です。これは公爵家に仕えると言う以前に、侍女と言う仕事に対する適性の問題です!」

侍女頭の言葉は雄弁で、確かに当然な見解だった。
最もな言い分に、それは周囲も認める所であったのだが、それでもローレライは彼女を助けたいと思っていた。

「そうね……。そうかもしれないけれど……、彼女も、被害者だわ……」

侍女を庇護する言葉を訴えるも、先程の忌々しい出来事を思い出すと、ローレライは震えが酷くなり、再びその場で膝が崩れそうになる。

「ぁっ」

「大丈夫か!?」

傍で支えるゼロの眼差しは、何処までも優しい。

「ええ……、ありがとう……」

侍女頭はローレライのその姿を見て、呆れたように深いため息を漏らした。

「お嬢様はお優しすぎます。ですが、これはそう言う問題では無いのです」

「あの方が……いなければ、彼女はそのままでいられた。……そうではなくて?」

あの方とは勿論ライサンドの事だ。

「そうでしょうが……」

ゼロは自らにしがみ付き、震えながらも必死で侍女を守ろうとしているローレライの姿を、何処か気高く感じ、その事を誇らしくも思う。
だが、その姿はあまりにも痛々しく正視できずにいた。

「もう良い……」

そう告げるのがやっとで、ゼロにはそれ以上引き留める事も難しかった。

「ううん。駄目よ。彼女も傷ついているわ。……それに結果としては、あの方の罪を告白してくれた……。それで私は救われたの。だから彼女の罪は消えたわ」

いつも自分にとても優しかった彼女を思い出しながら、ローレライは懸命に言葉を紡ぐ。

「それは詭弁です!」

「私が……許すと言っているのよ。……それで良いじゃない」

まだ恐怖を引き摺ったまま、小声で途切れ途切れに言葉を口ずさむローレライの姿は、周囲にとても痛々しく感じられた。
だが止めろと言った所で、ローレライはおそらく自らが納得せねば折れないだろう。
彼女はそう言う娘なのだ。
それゆえに見ている方はやりきれない。
何もできず、ただローレライを支えているだけのふがいない自分を心の中で叱咤しながら、ゼロが固唾をのんで見守っていると、その痛々しいやりとりを遮っる者が現れた。

「レライがこう言っているんだから、もうそれで良いだろ!? 被害にあった本人が良いと言ってるんだから、それで良いじゃないか……。喋るだけでも大変なんだ……。レライの今の気持をち考えてみろよ! 俺はこの状況で自分を陥れた相手の事を思いやれる妹を誇りに思う! あんたが同じ立場だったらそれが出来るか!? 出来ないだろ? だったらあんたにレライをとやかく言う権利はない!! あんたがやろうとしている事こそ唯の綺麗事だ!!」

実の兄であるルシオンが、妹の為に心の丈を叫ぶ。
ただ妹の名を愛称そのままに放たれる言葉は、支離滅裂。本当に滅茶苦茶な言いようだったが、その言葉には心に訴えかける何かがあった。

「……分りました。とにかく自室にて謹慎させます。後の判断は公爵様にお任せする事に致します。行くわよ」

そう告げると侍女頭は、泣き疲れ足元のおぼつかない侍女の背を支えながら、部屋から出て行った。

ずっと静寂を保っていたルシオンが、妹の痛々しい訴えに耐え切れなくなって声を荒げて助言した姿は、ゼロにとって衝撃的なものだった。
本当の兄ならば見ていてどんなに辛くても、妹の気持ちを瞬時にそこまで理解し咄嗟にここまで強く言えるものなのか?
だが、自分はどうだ!?
痛々しいローレライを見ていられなくて、ただ支え、軽い言葉をかける事がせいいっぱいで、制止する言葉を紡ぐ事もままならなかった。
実の兄であるルシオンにはとても敵わない……。
では自分が今取っているこの行動は、一体何を意味するものなのか!?

自らの感情の行方を、明確に掴むことが出来なくなってしまったゼロは、戸惑いの色を隠せない。
自問自答しながら、ゼロは困惑し続けた。

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~ Comment ~

NoTitle 

ううむ。
まあ、被害者が許すからと言って話が終わる問題でもないですからね。罪は残っていますし、罪人はいるわけですからね。
ローレライは優しすぎるのがネックにもなっていますね。

 LandM  様 

今日は。
そうなんです。
ローレライはそこがネックでもあるんです。でも、自分で気づいてない(笑)
超天然だし^^;

いつもコメント有難うございます。
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