ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《184.念 願4》(アレク視点)

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マリエッタの度重なる否定的な態度に加えて、この報告書の内容は、祖父君にとってロナルドに更なる疑念を植え付けるには十分なものだったようだ。

「現時点で私の口からはっきりと申し上げられることは何もありませんが、おそらく男爵が疑念を抱かれている内容は、私の思う所と同じだと推測致します」

「……この書類が事実であるならば、確かに侯爵が裏で工作をする理由は見つからないな……」

祖父君は、力なく告げた。

そう。工作等しなくても、マリエッタの婚約話が立ち消える事はあっても、受理される事はおそらく無い。
この件は限りなく黒に近いグレーだが、まだ話が完全に立ち消えた訳でもない。
婚約申請は受理されていないが、状況によっては受理される可能性も少なからずまだ残っている。油断はできない。
如何頼んでも、申請を取り下げて貰えないのであれば、別の推薦となる婚約申請書を早々に提出し、先に受理されれば良いだけの事。
マリエッタの結婚相手として、今現在誰が相応しいのか。この懐にしまってある新たな婚約申請書に名を記してさえもらえれば、ロナルドより先に受理してもらえる自信が私にはあった。

「私がこの件を調べようと思ったのは、中々婚約申請書が受理されないでいると知ったからです。通常婚約申請は、2週間から遅くても1月以内に受理されるのが通例なのです」

「知っている。私も申請書を提出した口だからな。裏工作が無いのであれば、3か月と言うのはほぼ絶望的な日数だろうな……」

不本意であろう祖父君は、自身でその事を認められていた。

「些細な記載漏れなどは報告から半年以内であれば修正報告は可能です。違約金は発生いたしますが罪に問われることはありません。しかし正直に申しまして、今回の件は明らかな資産報告書の不正。罪となりますが、婚約申請が受理される可能性は、それでもゼロではない」

「アレクシス、何故そんな余計な事をッ!」

マリエッタが私の発言に否定的な声を上げるが、それを私は手を軽く盾にして制した。

「ただ、その場合、不名誉と言う事で婿養子などの口は、多くはその後申請書返却手続きがなされているのが通例だとか」

「……だろうな……」

ため息交じりに私の言葉を祖父君は肯定した。

「ですから、ここは後になって恥をかくよりも、今状況を見極めてこの私の持ち寄った書類にサイン頂けませんか?」

「そう来たか……」

「はい」

祖父君はかすかに苦笑いを浮かべている。

「彼の場合、額が額ですから、おそらく正当な取引ではない事は、誰が見ても明らかだと思います。その事から考えられる今後の国の対応については、男爵ならば既にお分かりになられるのではありませんか?」

「……我がマニエール家にも調査の手が伸びるという事か……」

「私の口からは何とも……。我らはロナルド・セオン・ドワイヤルについて調査を依頼しただけでしたから」

「……おそらく、調べられはするのだろうな……」

祖父君がため息交じりに小さな声で呟いたが、今の私にはその返答をすることが難しかった。

だが、私にとっての隠し玉はそれだけではない。報告書に記載されてある最後のページにこそ、それはあった。

「次が最後です。覧ください」

大きく息を吐き出しながら祖父君が最後の紙を力なく捲る。
そして、そこに書かれてあった内容を凝視すると、再び祖父君は固まった。

「……これ以上驚くことは無いと思っていたが……、これは……事実なのか?」

書類を手にしていた祖父君の手が大きく震えている。

「はい。隣国ではかなり乱れた生活をおくっていたようです。認知はしていないようですが、調べでは息子であることは間違いないようです」

「その事を……ロナルドは知っているのか?」

「とりあえずは……。周囲の話では『子が出来なければ認知してやる』と言う話もあるとか無いとか。その時は、呼び寄せるつもりなのでしょうね」

「……この事が、事実ならば……馬鹿にしているにも程があるッ!!」

「事実でしょうね。その調査書は、我がルーカス家が経営する調査事務所が調べたものです。そこに記されている調査人は私の2番目の実の兄です。ルーカス家の経営する調査事務所の報告が信頼できませんか?」

リレントの助言はいつも的を得ている。

「いや、そのような事は……」

「旦那様は、ルーカス家からの信頼も厚い」

「そうなのか……」

おそらく祖父君にとって、これ以上確かなロナルド・セオン・ドワイヤルの調査報告書は誰に頼んだところで入手困難なものだろう。

祖父君は、その調査書を握り締めると、大きく項垂れ、ゆっくりとソファーに腰を落とした。

「……オセアドの事も心配だが、このような不誠実な男に……マリエッタはやれぬ……」

「お爺様ッ!」

「男爵!」

「あなた……」

「新たな婚約申請書類にサインしよう……。もう一人の推薦人も、近しい親族の中から誰か推薦しよう」

このように婚約申請書類を重ねて提出する場合、国の有力者、若しくは親族からの推薦が一番有効であることを祖父君はおそらく知っている。

「いえ、その件は不要です。既に一名はサインを頂いておりますので……」

「そうなのか? 一体誰が……」

「この方です」

祖父君は、私の取り出した書類に書かれてある署名を見て、瞳を見開いた。

「このお方と……、面識があったのか?」

「正確に言いますと、面識を作った……、という事になりますが、我らの状況を知り、手を貸してい頂けることになりまして……」

マルサドンナ・ポリゼベーテ伯爵夫人には、祖父君も大変な恩義があった筈だ。

「何故この事を最初から言わなかったのだ? あの方の推薦があるならば、私はもっと早くにきっと折れていたかもしれない……」

「自らが欲した、愛する女を手に入れるのです。出来れば自らの手で勝ち取りたいじゃないですか。ポリゼベーテ伯爵夫人の名は、私にとっての最後の切り札でした」

「そうか……。そうだな……」

祖父君は書類に署名をしながら小さく微笑んだ。

「マリエッタ。幸せになりなさい。私たちのように……」

傍らに寄り添う夫人の声に、祖父君の瞳の奥がかすかに揺らいだ気がした。

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~ Comment ~

NoTitle 

うーむ。
昔は結婚も大変でしたね。
まあ、下の人は結婚な簡単だったのでしょうけど。
上の身分の人は結婚も大変ですね。
親族の了承もいるんですから。
当人同士が婚姻届けを出して終わりーといかないのが
面倒くさいですね。

LandM 様 

今日は。
現世でも今でも身分の高い人は色々ありそうですが、これ程は無いでしょうしね。
はっきりいってメンドクサイ。すっごい面倒くさいけれど、だからお話に出来る所もあるので、活用させてもらってます(笑

いつもコメント有難うございます。
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