ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《185.決 断》

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サインした書類の内容を確認し、受け取るアレクシスと祖父の動向を見守りながら、私はアレクシスの傍らに寄り添うように佇んでいた。

「確かに……。お預かりいたします。王都に帰省次第、書類は直ちに提出させいて頂きますので」

「ああ、後の事は、宜しく頼む……」

「はい。全てにおいて、出来うる限りの事は、させて頂くつもりでおりますので……」

互いに深々と頭を下げ合う二人の様子を、私は固唾をのんで見守っていた。

『後の事』とは、何を意味するものなのか?
私との事?
それとも今後のマニエール家の事なのか?

色々と新たに知る事となってしまった厳しい現実が、私の胸の奥に大きな重しとなって降りかかって来る。
アレクシスとの事は何があっても絶対に譲れない事だった。
けれど、ここに来て自らが逃げ出してきたマニエールの家の事が気になっているのも確かな事だった。
後継ぎとして生まれながら家を去ることを決めた私。
けれど、それでも家の存続をも危ぶまれるかもしれない事態が起こっているかもしれないと思うと、冷静ではいられない思いだった。
もし、私がマニエールの家を飛び出さずに、領地へも父と一緒に足を運んでいれば、或いは気づけていたかもしれない……。

「お爺様ッ!」

アレクシスが懐に書類を仕舞い込む傍らで、私は自らの衝動をもはや抑える事が出来なかった。

「私が……、わがままを言ったせいで、ごめんなさい……」

祖父に駆け寄りしがみつくと、ずっと我慢していたのに溢れ出す涙を抑えることが出来なくなってしまった。

どれだけの思いで、祖父は書類にサインをしてくれたのだろうか……。

最初はただ自分の幸せの為だけに、このマスニエラまでやって来た。
けれど、それに伴い祖父母に突きつけられた現実は、思いのほか重いものだった。
まさか、ロナルドの件でマニエール家がそんな事になっていただなんて……。

「我がままではないよ、マリエッタ。今となっては、私は侯爵に感謝すら覚えている」

「男爵……」

祖父から、今までに無い柔らかな眼差しを向けられて、アレクシスが少しだけ肩をすぼめた。

「それにもし、あのまま何も知らずにお前とドワイヤル家との婚約が正式のものとなり、当初の予定道理式を挙げていたとしたならば……、今考えただけでもゾッとする」

確かに、それは考えただけでも恐ろしい……。身がすくむ思いだ。
思いがけず背に憎悪がみなぎりぞくりと肩を震わせる。
するとアレクシスの両腕が、私の肩を優しく抱いた。

「アレクシス……」

「男爵、『もし』は存在致しませんのでご安心を。マリエッタ嬢は何かあれば、修道院へ向かわれる心づもりでいたようですから、それはあり得ません」

「アレクシスッ!」

ここに来てのアレクシスのまさかの爆弾発言に、私は少しばかり慌てた。
これだけの状況を何とかしようと話している目の前で、結婚が嫌だから修道院へ向かおうとしただなんて、今考えたら短絡的にも程がある。
それに知られるのも少し気恥ずかしいと言う思いもあったのだが……。
何故かアレクシスのその発言に、祖父母は嬉々として驚いたように目を見開いた。

「そうなのか!?」

「まあ、そうなの?」

なんだか思っていたのとは反応が違うような……?

「……今更だけど、最初に私がマニエールの屋敷を飛び出した経緯は、お父様が意に添わぬ結婚を行使されようとなさったからなの。アレクシスとはまだ当時思いを交わす以前だったけれど、それでも私の心はもう決まっていたから……。どんな形であれ、一緒に居る事が叶わないのであれば、この思いを胸に修道院に入って一生アレクシスを思い過ごそと思っていたの……。思いを遂げる事は叶わなくても、あそこならば思い続ける事は出来るから……」

一気に言い終えて、自分勝手な行動をとろうとしていた事に対し、何を言われるのかと身構えて、生唾をごくりと飲み込んだ。
すると……。

「成程な……。どおりで何を言っても叶わない気がしたはずだ……」

全く想像していなかった祖父の反応に、私は呆然とし、祖父を見つめた。

「えっ? お爺……様??」

祖父がそんな風に思ってくれるなんて……。とても意外でしかない。
それに加えて添えられた祖母の発言が、また更に私を困惑させる。

「マリエッタの変に気の強い所は、オセアドに似ていると思っていたのだけれど、まさか私に似ていたなんてね」

「えっ? 私が……お婆様に?」

祖母の言葉に、私は小首を傾げた。
と言うのも、未だかつて祖母に似ていると言われたことは一度も無いのだ。

「だって、私も行く気だったのよ。お爺様の許に本当に嫁げないのであれば、修道院へね」

「お婆様が!?」

にわかに信じがたい事実。
きっと祖母自らの言葉で聞かされなければ、信じる事は難しかっただろうと思う。
いつもお爺様に寄り添い、傍にいて優しい眼差しを向けている和やかな祖母が、そんな行動的な事を考えるなんて、夢にも思っていなかった。

「信じられないって顔ね」

「だって普段のお婆様の行動からは、とてもそんな大それたことを考えらる方だとは……」

「恋する女は強いものよ。そこに覚悟があったなら、もう誰にも止める事なんて出来ないわ。貴女だってそれは同じではなくて?」

「お婆様……」

「けれど覚悟はあっても今のあなたには、このお話は少し酷ね。幾つかの問題は、まだ抱えたままだし……。けれど決して焦らないで欲しいの。当時の私は貴女とは別の意味で大きな問題を抱えていたけれど、貴女は私と違って健康だわ。きっと元気な後継ぎだって幾らでも望める。未来があるわ」

ああ、そうだった。
その話は聞いたことがあった。
祖母は身体が弱く、例え結婚しても子を産めないのではないかと囁かれていたこともあったのだとか……。
けれど、祖父はそれでも祖母を一生の伴侶にと願い、添い遂げたのだと……。

「マニエールの家の事は気にしなくても良い……。これからどうなって行くかも今は分からないのだからな……。オセアドの行い如何によっては今後の存続についてもどうなる事か……」

「お爺様……」

後天的な祖父の物言いに、胸が痛んだ。
隠居したとはいえ、マニエール家は祖父が預かり長い間守って来た家だ。
そして捨てて来たとはいえ、私の実家であることは間違いない。
感傷に浸っても何もならないと分かっていても、何も考えないではいられなかった。
マニエール家はこれから、本当にどうなって行くのだろうか?

そう思っていると、アレクシスが静かに口を開いた。

「どのような形になったとしても、力を尽くす事をお約束いたします。この書類にサイン頂いたからには、私はマニエール家の一員にもなるつもりでもいる事をお忘れなく」

「侯爵……ッ」

「アレクシス……」

アレクシスの寛容な言葉に、祖父はふらつきながらも立ち上がると、アレクシスの右手を取り両手で強く握りしめた。
うつむき気味のその瞳の奥は覗くことが叶わなかったが、その口元はかすかに震えていた。

私と縁を繋ぐことで、アレクシスはマニエール家の事も抱え込もうとしてくれている。
それはおそらくグラッセ家にとって重荷にしかならない。
場合によっては名誉あるグラッセ家の名に傷をつける事になるかもしれない。
それをもいとわぬと言う彼の潔い態度に、私はアレクシスに二目惚れした。

もう迷いは何もない。
私はただアレクシスを信じて付いて行けばいい。
これからもずっと……。

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~ Comment ~

NoTitle 

ま、おっしゃる通り。
恋愛に、もし、はないですね。
ただ、行動が蓄積されていくだかけです。
その積み重ねに絆が形成されていくんでしょうからね。
過去悔やんでも、未来を怖がっても仕方ない。
( ̄~ ̄;)

LandM様 

今晩は。
そうですね。
恋愛に限った話ではありませんが、後ろを振り返ってばかりでも何にもなりません。
中ても恋愛、それも未来が伴う事ならば、全てを受け入れ頑張るしかないんです。
相手の背景にあるものもすべて受け入れ、共に支え合うという事が大切。
二人の尻を叩きつつ、前進あるのみ!

いつもコメント有難うございます。
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