パウリンに導かれて

パウリンに導かれて《第11章7》

 ←ずっと心に決めていた《185.決 断》 →  離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第7話 
ローレライが部屋去ると、ゼロは入れ替えられた部屋の荷物の配置を確認すると、軽く汗を流し再び身を整えた。
ローレライがこのまま落ち着いたままで過ごせるとは想像できず、いつでも呼ばれれば出向く準備を整えていたのだが、それは期待を裏切らなかった。
それは喜んでいい事なのか、如何なのか?

「お嬢様が不安がられておいでで……。アイスラント様にお傍にいて頂きたいとおっしゃられております」

侍女にそう告げられて、ゼロは直ぐに移り変わったばかりの隣の部屋へ向かう事となった。


隣の部屋の扉を開けると、切望の眼差しを浮かべながらずっと扉を見つめていたローレライが、直ぐにその腕にしがみ付いて来た。
そこが自らの定位置とても訴えるように、ローレライはその腕を掴んで、何処か安心したような仕草を見せた。

「サンドラ様は、本当にアイスラント様を信頼されているのですね」

ローレライが頬を染め小さく頷くと、ゼロは小さく苦笑いを零した。
女と言う生き物にこれ程懐かれて信頼を寄せられると言うのに不快を覚えず、それを素直に許している自分がゼロは不思議でならなかった。

侍女達はそんな二人の様子を見、顔を見合わせ笑みを浮かべると一礼をし、後の事をゼロに任せ退出して行った。

(さて、これから如何したものか?)

とりあえず視界にティーセットが目に入り、ゼロはローレライを傍にあるソファーに座らせると、大丈夫だからと二度ほど頭を軽く手を添えると、視界に入ったそれに手を伸ばした。
ゼロはローレライが事ある毎に紅茶を良く飲んでいた事を知っている。

(少しでも飲めば、落ち着けるか?)

自ら紅茶を注いでローレライに差し出した。

「ダージリンだ」

ローレライは注がれた紅茶を両手で受け取ると、ゆっくりと口元に注いだ。
ダージリンの爽やかな香りが心を溶かす様に、一口毎に胸の奥に染み渡る。
すると思いがけずにローレライの頬を一粒の涙が溢れ落ちた。

「どうした!?」

少し落ち着いてきているように見えていたローレライの突然の涙に、ゼロは少し慌てるようにその顔を覗き込む。

「違うの……。ただ嬉しくて……」

ローレライは柔らかな笑みをゼロに返した。

「そうか」

苦笑いを浮かべながら告げられた『そうか』のその一言に、どれだけ優しさが含まれているのだろうか?
ローレライはゼロの不器用な言葉の裏に隠された優しさに触れ、胸の奥が段々と暖かくなって行くのを感じていた。

(こんなにも傍にいるだけで、心が安らげる方がいるなんて……)

最初は怖いと思っていた筈のゼロの事が、いつの間にこれ程信頼のおける人になってしまっていたのか?
出会った頃、はっきりした素性は分からないまでも従兄のフリードルの元上司の騎士であることから信頼できる人であるとは理解していた。
今回の前王弟殿下の甥であるという事を聞き驚かされたが、それで高貴な出とか如何だとか、ゼロの印象が変わることは無かった。
ここに居ても何も何処も変わらない人。
相変わらずブラックナイトと言う不思議な集団を束ね、何をしているか分からない人ではあったが、その中においても地位にも拘らず、そこに奢りのようなものは一切感じられない。
厳しい面もあるが皆にとても信頼されているのが良くわかる。そんな尊敬できる人だとずっと思っていた筈なのに、いつの間にか傍に居るだけで心まで癒されるようになっていた。
そして今ではローレライはこの傍から離れたくないと思ってしまっていた。 

「少しは落ち着いたか?」

「はい……」

「ならば早く休め」

「えっ?」

「眠らずとも横になれば、少しは疲れが癒える」

「……でも……」

「何だ?」

「なんだか、とても怖くて……」

「ああ。ここで見ていてやるから休め」

「はい。……では、おやすみなさい」

「ああ」

誰も来ないようにずっと見張ってくれると言うゼロに促され、一度は安心して隣室のベッドに自ら入ったのだったが、やはり一人で寝室に居るだけで段々と怖くなって来てしまいまた呼んでしまった。

「ゼロッ! ゼロッ!!」

ローレライの叫び声にゼロが直ぐに寝室へと飛び込んできた。

「何だ? 如何した!?」

「やっぱり無理……。とても一人でいられないの……」

「そうか……」

「ごめんなさい……」

「気にするな。眠るまで傍にいてやる」

ローレライはギュッとゼロの腕の袖口を握りしめると再びベッドに身を沈めた。
こうしていると本当に落ち着ける。
自分はかなり我儘な事をゼロに強いていると言う自覚があった。
今はこう言う状況だから傍に居てくれるけれど、きっと時間が経ってしまえばこの腕は無くなってしまうもの。
ローレライはライサンドに触れられた時に、初めて自分の心を知った。
あの時、思ったのだ。
ゼロ以外の男性に触れられたくないと……。
とても安心できる温かな腕。
ゼロの腕を頬に寄せ、安心するといつの間にか眠りに落ちて行った。


ゼロは自分の腕を頬に寄せ安心しきって眠るローレライの姿を見て、もう耐えられないと思った。
こいつに触れられる腕は、いつでも自分の腕でありたいと思った。

(愛しい……)

こんなにも切ない思いは初めてだった。



若い頃とても好きになった人がいた。
恋い焦がれ、初めて知った想いだった。
しかし酷い形で裏切られる事になり、姉ですら女は信じられなくなった。
女とは所詮裏切る生き物なのだと言う事を、その時知った。
媚び諂い、揚句に裏切る残忍な者だと思い続けていた。
今思えば、辛すぎてそう思い込もうとしていただけなのかもしれない。

ローレライに出会い、こいつも始めは所詮同じ女だと思った。
それなのに関わるにつれ、ローレライの人や生き物、物事への対応に唖然とさせられた。
今まで見て来た女と記憶するそれとは全く異なる、とても新鮮印象を植え付けられた。
今まで知らない未知なものに出会ったような感覚で、いつもその行動には驚かされる事ばかりだった。
清々しい気持ちを植え付けられ、いつの間にか傍に居なくては自分が安心できない存在になっていた。
あの時に知った恋はきっと本当の恋ではなかった。
恋に憧れ、甘い香りを知り、若さゆえに溺れのめり込んで行った。
それだけだったのかもしれない。
ローレライと出会い、知り行く中でそう思えて来る自分がいた。
成し遂げなければならない己の定めた道半ばの状況で、これ程までに愛しさを感じる想いを自覚し、これから自分はどうやってこの思いを持ち続ける事が正しいのか!?
何より今こんなにも辛い思いをして不安定な心のローレライに対し、剣の師として自分を慕う彼女に対し、支えながら自分は何処まで気持ちを隠し通せる事が出来るのか?
はっきり言って自信が無かった。
けれどこれ以上、決して傷つけたくはない。
それだけは確かな事だった。
これ以上傍にいては、思わず触れてしまいそうになる……。
そっと握られた腕から手を離し、ゼロがその場を去ろうとした瞬間だった。

「……ゼロ……」

微かにローレライの唇から声が漏れた。
眠っているのに無意識に自分の字名を呼ばれ、ゼロは溢れ出す想いを押さえきれなくなった。
枕元に再び寄り添いローレライの髪をそっと撫ぜる。
愛しさが込み上げて、もう耐えられなかった。
ローレライの唇に指でそっと触れると、ゼロは自分の唇をかすかに押し当てた。

「ん……」

かすかに身じろぐような仕草をみせながら、鼻から抜けるかすかな声を発したが余程疲れているのかローレライは何も気づく事無く眠り続けていた。

「私も奴と同類だな……」

唇を離し苦笑いすると、愛しげにローレライを見つめながらそう呟いた。
額に再び唇を落とすとゼロはそっとその場を後にした。

★押して頂けると励みになります

にほんブログ村

にほんブログ村


総もくじ  3kaku_s_L.png パウリンの娘
総もくじ  3kaku_s_L.png 記憶の彼方とその果てに
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ&感謝
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【ずっと心に決めていた《185.決 断》】へ
  • 【  離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第7話  】へ

~ Comment ~

NoTitle 

アレですよ。
ナンパ男は台風の日に意中の女性にメールをするんですよ。
「大丈夫かい?」
・・・と、そうすると意中の女性はものすごく好感があるらしいですね。まさに台風の日や風邪の日がねらい目だとナンパ男は語っていたのをテレビで見ました。
それと同じ原理ですね。
(*´ω`*)

 LandM  様 

今晩は。

そうなんですね~。そういう定義があったとは!
ただ、鈍い二人が気づかさせられるとしたらこう言う所だろうと設定にした状況だったんですが(二人とも、ずっと気になっていて、自覚がなかっただけで周囲の方が気づいてるぐらいでしたから)、知らず知らず原理に適っていたという事で^^
ゼロはナンパ男とはかなりかけ離れている人なんですけどね~(笑

いつもコメント有難うございます。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ずっと心に決めていた《185.決 断》】へ
  • 【  離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第7話  】へ