ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《186.約 束》(アレク視点)

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マリエッタの祖父母に見送られ、マスニエラを出立したのは日もとっぷりと暮れてからたった。
待機していたヨハンナに目的を果たせたことを報告すると、とても喜んでくれた。

「ああ、お嬢様ッ! これで本当にお嬢様がグラッセ家のお嬢様に……、いえ奥方様になられるのですね。ようございました」

余程心配していたと見える。
言葉を口にするなりヨハンナは感極まって涙ぐんでいた。

「お爺様の署名してくださった婚約申請書が正式に受理されれば……ですけれど……」

「受理されればって、受理されない事があるのですか?」

マリエッタは何処か慎重で、少し複雑そうな表情を浮かべていた。
婚約申請の書類に無事サインをもらう事は叶ったが、自分の生まれ育った生家が大変な危機に曝されるかもしれないのだ。
マリエッタの性格上、素直には喜べず消極的になってしまう事は、十分に理解できた。
だが実の所、心配する必要など無いのだ。
何故ならば……。
実は婚約申請書に関しては、ポリゼベーテ伯爵夫人と、祖父君署名の申請書さえ手に入れば、後の事はマクシミリアン王太子殿下が口添えしてくださる手はずになっているのだ。
だが今はまだ、私の背後に王太子殿下の存在がある事を、他者に知らせる訳にはいかない。
それが例えマリーであったとしても……。

「正式な書式にのっとった形となっている申請書類については、普通では有り得ない。だが、この申請書は2枚目だ。通常のものとは処理も異なる。まかり間違ってロナルドのあらゆる疑いが晴れる事態に陥れば、あっちらが認められるという事も無きにしも非ず。だから絶対に無いとは言い切れない」

「……ああ、そうでした。そういえば、確かドワイヤル家のご兄妹は、取り調べを受けられた後、妹君は恐喝の容疑で書類送検されたと伺いましたが、兄君の方は結局無罪放免に……」

「ヨハンナ!!」

「もっ、申し訳ございません!」

私の厳しく名を呼ぶ声に、慌ててヨハンナは口を塞いだ。

実はロナルドに関しては、現在そういう状況下にある。
だが、あえて私はその事実をマリエッタには知らせなかった。
何故かと言えば、この話をマリエッタの耳に入れてしまえば、彼女の心配の種をまた一つ増やす結果になってしまうと分かっていたから。
そうでなくてもマニエール家の存続が関わってくるかもしれない大きな問題を抱えている減殺のマリエッタの心中を思えば、これ以上の気苦労を背負わせたくないと言うのが正直な所だった。
どうせロナルドは遠からず拘束されるであろう身。
知らずに済めばそれに越したことは無い出来事を、わざわさ教えてやる必要は無いと思ていたのだが、まさかここに来て、このような形でロナルドの件が漏れる事になろうとは……。

ヨハンナに目を向けると、小さく肩をすぼめて項垂れていた。
彼女にはかなり今まで心配をかけて来たから、嬉しさに口が緩み思わず零れ出てしまった言葉だったのだろうが……。

「……ロナルドは……、釈放されていたのね」

その話を聞き、マリエッタは小さく肩を震わせていた。

ああ、こんなにも怯えて。
だから、知らせたくはなかったのに……。

「黙っていて、済まなかった」

「……ううん。アレクは、私の事を考えてくれたのよね? 私がロナルドに対していつも怯えていたから……」

「奴は当初、警務騎士団へ対しかなり否定的で頑なな態度を取っていた事から拘束は長引くだろうと思われていたそうだ。だがその後、状況証拠が次から次へと明るみになって行くと、観念したのか妹の犯した罪についても謝罪の言葉が聞かれるようになって行って……、そうなって来ると現段階において彼の身を拘束する事が不可能になってしまったらしい。彼自身は罪を犯した訳ではないからな。よって厳重注意が妥当と言う判断となり釈放に至ったそうだ。だが、二度目は無い。奴もそこは考えて、これからは慎重に行動をせざるを得ない事から、正式に婚約申請も認められていない相手に対し、強硬的な手段を用いる事はおそらく無いと考えられる」

「だから、ロナルドは私の前に現れないのね。今度は自らの保身の為に……。何処のでも自分勝手な方ね、本当に……」

「マリー……」z

「……色々と骨をおってくれたのでしょう?」

「大した事はしていないさ。唯、奴に関しては、実は安心材料が一つあるんだ」

「安心材料?」

「奴には今、別件である警務騎士団の監視がついているんだ」

「監視が……」

「だからマリーは今まで通り、安心して私の側にいてくれ」

今回の件においての咎めは無かったが、ロナルドが別件で近々捕まるであろう事は必須。
パウウェルの話では調査もかなり進んでいるとの事だから、ならば敢てマリエッタにいらぬ心配を抱かせる必要も無いだろうと、この件に関しては黙っておくつもりだったのだが、知られたからには流石に嘘をつく訳にもいかない。

「……申し訳なが、流石にこれ以上の詳しい事情はまだ話せない。それに、その関係でおそらく今後マニエール家にも少なからず捜査の手がこれから伸びて行く事になる。だから何があっても、覚悟だけはしておいてくれ」

「……はい……」

マリーも既にこの件は理解してくれている筈。
更なる心労を負わせてしまう事になるが、これだけは私にも如何してやることも出来ない。

「そんな……。お嬢様」

話を聞き、ヨハンナは心配そうにマリエッタの様子を伺っている。

「だが、約束する。この書類だけは無用の産物には決してさせないと!」

誠意をもってその事だけはマリーに誓う。

「アレクシス……」

私はそっとマリーの手を取り両手で握りしめた。

「何があっても愛している。私の伴侶は永遠にお前だけだ、マリエッタ」

マリエッタの頬に一粒の涙がこぼれ落ちる。
互いを見つめ、吸い寄せられるように互いの頬が近づくと、静かに二つの唇が重なった。

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~ Comment ~

NoTitle 

結婚って法律的なものですからね。
実質的なものじゃないんですよね。
法律的にも自分たちが結ばれたってことを残すためには
結婚って手段が必要なんですけど。
法律的な縛りを必要としないのであれば、別に同性婚もアリですからね。
何にしても、国に認められるのは大変だ。
(ーー;)

LandM 様 

今日は。
返信遅くなりました。

二人が平民だったらここまで問題が大きくならないんでしょうが、貴族間の結婚となると後継ぎ問題や色々な面で手続き上面倒なことが沢山出てきますし、マリーはともかく、アレクなどは正式な妻を立たせないと周囲が色々言い出しそうなので、アレクは何としてもマリーを正妻として認めさせたい思いが強いみたいです。
感情面では二人の間では法律的に認められなくても問題ないんでしょうが、そこが難しい所です。
何はともあれとりあえず一山超えて、後は後始末の段階なので、色々と平穏に行かない事もあるかもしれませんが収集していきたいと思っています。

いつもコメント有難うございます。

時事ジョーク 

「アレクシス様のお気持ちを忖度してわたくしがこの剣で」

「ここは日本ではないッ!」

 ポール・ブリッツ様 

今日は。
お久しぶりです。

おお!ナイスジョーク♪

本当にバッタバッタと切り捨てられたら楽なのに~(笑

いつもありがとうございます^^/
コメント
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