ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《187.策 案》(アレク視点)

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夜通し馬車は走り続け、邸に戻って来たのは翌日の早朝。
まだ日も昇っていない時間だった。

余程疲れているのか、到着した事にも気づきもせずに、マリエッタは私の肩に寄りかかったまま眠っている。
ヨハンナに先に降りて貰い、別邸の扉を開けてもらうと、彼女が目を覚まさぬように気を付けながら、優しくその身をそっと抱き上げた。

「お嬢様、余程疲れておいでのようですね」

「当然だ。私でもこの1日で1週間分の労力を費やした気分だ」

体力には自身のある男の自分ですらそのように感じるのだ。
こんなに華奢な身のマリエッタの疲労度は、おそらく私の比では無いものだろう。
身体的な疲労度もさることながら、精神的にもかなり堪えているに違いない。

「あら、その割には、旦那様は随分と清々しいお顔をなさっておいでのように感じられますが?」

「当然だ」

これで、愛しい者と結婚することが叶う事になるのだ。嬉しくない筈がない!
マリエッタを寝台に降ろすと、その額に優しく口づけると、懐に入ってある結婚申請書の書類に手を置いた。

「少し城に顔を出して来る」

執事のハンデルに捕まれば、おそらく本日中に申請書を提出することもままならない。
訴えた所で『そんなものはリレントにでも任せておけばいいのです!』と言われておそらく終わりだ。
申請書の提出は当人でなくてはならないと言うものでは無いが、なんとしてもこれだけは、自らの手で提出したいと思っている。

「統帥長閣下の許へお出かけですか?」

「ハンデルには式典に少し遅れると言っておいてくれ。奴と殿下に少し話がある。それに申請書は一刻でも早く提出したい」

「30分が限度ですからね。それ以上はハンデルを抑え込める自信がありませんから」

「上出来だ。後は頼んだぞ」

リレントとヨハンナに後の事を任し、私は単独で城へと馬車を走らせた。

運の悪い事に、今回式典の開始時刻と、書類の申請窓口の受付開始時刻が重なっていると言う事態に陥っている。
事情を話した所で、とてもあの執事が書類を出して来いと言ってくれるとは、到底思えない。
それどころか捕まったら最後、いつ離してもらえるかもわからない。
念願の……、マリーとの今後の行く末を担う書類を手にしているにも拘らず、提出がままならない事態と言うものは御免だった。
私はとにかく、1分1秒でも早く、この婚約申請書類を王城にある法務省の戸籍課に書類を提出したかったのだ。 
それに、警務騎士団本部にも顔を出さなければならなかった。
休暇に入る少し前、悪友パウウェルが少し気になる事を言っていた。
そして、マクシミリアン殿下にも内々に婚約申請の書類を提出した旨を伝え、再度ご配慮頂けるように頼んでおくつもりだった。
だが、急な事だ。
殿下には内々に面会する事はとても難しいと思っている。
スケジュールも関係してくるし、そこは全てを把握している筈であるパウウェルを頼るつもりだが、どうしても会う事が叶わなければ、奴を介して報告してもらう他ないと思っている。

城に着き、警務騎士団本部へ顔を出す。
暫く城に泊まり込みだと言っていたから奴はいるはずだ。

「補佐官殿? このようなお時間に、珍しいですね。長期休暇中と伺っておりましたが、まさか何か火急の事態でも?」

顔見知りの青騎士に心配そうにそう告げられて、苦笑いしながら否定した。

「いや。少し野暮用だ。居るか?」

「はい、執務室においでです」

警務騎士団での私の待遇は、日頃から出入りしている事もあり顔パス状態だ。
勝手知ったる何とやら。私は悪友の執務室の前まで行くと、扉を軽く二度叩く。

「パウウェル、入るぞ」

返事も聞かずにそのまま執務室の扉を開いた。
奴は書類の山に埋もれながら、その隙間から顔を覗かせると、かすかに微笑した。

「……ダダ漏れだな。お前、隠す気が無いだろう?」

喜びに感情が乱れまくっているせいか、どうやらパウウェルには私の思考が流れ込んでいるらしい。
私は婚約申請書を懐から取り出すと、奴の前にチラつかせた。

「朝一で提出して来る」

「それにしては早いお出ましだな」

「殿下にもう一釘刺しておこうと思ってな」

「ああ。流石にまだ寝ているだろう? それに今日の予定ではおそらく面会は無理だ。折を見て私から念押ししておいてやる。この結婚が整わなければ、グラッセ候は使い物にならなくなるとな」

「ああ、頼む」

苦笑いを浮かべると、私は奴に後の事を任せる事にしたが、思わぬ吉報も入って来た。

「しかし、良かったな。何とかこちらの守備も上々でな。お前の休みが明けるまでに良い報告が出来ればと思っていたが、やっと、追っていた女が口を割ってくれたらしい」

「追っていた……、女?」

「奴は隣国ステガルドでは留学中から、かなり乱れた生活を送っていたらしいからな。中には一人ぐらい過去にさかのぼり奴の事を疎ましく思っている者もいるかも知れないと思い探ってみれば、一人だけ見事にビンゴした」

「過去の女絡みとは、また奴らしいと言う他ないな」

因果な奴だ。
なんでも相手は鉱石王ブラッド・バーンの元秘書だった女で、偶然を装いバーンと最初に引き合わせたのはその女だったそうだ。今は分からないが、過去に奴がバーンとの密会に使っていたとされる隠れ家的店を教えて貰えたらしい。その店に暫く潜入し奴とバーンの関係に詳しい者の話を聞ければと張っていれば、バーンと取引のある密売業者の者に会うことが出来たそうだ。現在監視下にあり出国できないでいるロナルドを良い事に、言葉巧みに自国で奴との取引をしているが、仲介料が高く思ったほどの利益が得られない事から自ら直接取引が出来る相手を探しているのだと言う事をアクアローズの原石を手に話を匂わせてみれば、相手側も見事に乗って来た。近々視察と称し今度こちらに招待すると言う話になっているらしい。
国交の関係で、ステガルド国内で犯罪の有無を暴いた所で罪の問うのは難しい。ならばこちらに招き入れる他ないと考えた次第なのらしいが。

「視察先はマニエール男爵家の持つ鉱山を考えている。奴がマニエール男爵家に婿入りする話はステガルドでも既に知られている事らしい。より相手を信頼させるにはマニエール男爵家の所有する鉱山は打ってつけだと思わないか? 男爵には隣国からの視察団の受け入れを受け入れる旨、国務尚書の名で打診しようと思っているが、勿論今回の話はフルデンベール伯爵には当日まで伏せておくつもりだ。視察には補佐官であるお前を同行させ対処しようと考えているが、何か異存があるか?」

色々と考えている最中だとは言っていたが、話が既にここまで煮詰まって来ているとは思っても居なかった。

「ロナルドは如何するんだ?」

「当日、様子を見計らって偶然を装い、視察団と合流させるつもりだ」

「分かった。勿論だ。私が同行させてもらう!」

私は2つ返事で、悪友の案を受け入れた。

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~ Comment ~

NoTitle 

男にもマリッジブルーあるからな~~~。。。
って思ってしまった。

アレクみたいなのはともかくとして。
そうでなくても、女性を支えることができるのか!!??
このまま一人でいた方がいいんじゃないか!!??
って思ったりしますからね。

結構、結婚式の書類だすのも勇気がいることなんですよ。。。
いや、本当に。

LandM 様 

今日は。

おお!
何か経験あるかの如くのご発言がw!!
って、事はそれを乗り越えられないと男性も大変という事ですね?

でも確かに、昔は世間一般ではあまり耳にしませんが、男性でもあるとここ数年聞くようにはなってきましたね。

私は旦那と結婚した頃はそんな事思いもしませんでしたが、いまにして思えばうちの旦那がそうだったのかもしれないと振り返る次第。
旦那、結婚前後から、体調良くなくて、結婚して3年ぐらいまで色々あって……。
あれは男性のマリッジブルーの一環だったのか?
眠れなかったみたいだし……。
今はうちじゃないと良く寝れないみたいですが……。

が、アレクは先ず無いな。
支えられるものすべて持ってるし、不安要素はマリー絡みだろうし……。
マリーに逃げられたら、生きた屍だろうしな。今の奴は…(笑

いつも男性視点の勉強になるお話、有難うございます。

NoTitle 

アレクさんの問題は、むしろ「子供ができてから」だろうと思います。子供にまで嫉妬しかねないですよこの人(^^;)

それを避けるためには、マリーさんはラグビーチームが作れるくらい子供を産まなければあかんでしょうな。お疲れさまであります(^^;)

 ポール・ブリッツ 様 

今日は。
ご推察通り♪
私もアレクは息子相手に嫉妬する事200%と思ってます^^
ラグビーチーム位産んでも、引っぺがしそうですが^^;
とりあえず、対策はマリーに似た女の子と思ってますので、マリーには両家の跡継ぎ+マリーそっくりの女の子が生まれるまで頑張って貰いましょう(笑

コメント有難うございます^^

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