ずっと心に決めていた

ずっと心に決めていた《188.朗 報》

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囀る鳥の可愛い鳴き声に耳をくすぶられ、清々しい朝を迎えたつもりだったのに……。

「んっ……、まぶしっ……」

ゆるゆると瞳をこじ開けてみれば、カーテンを引き、こちらに微笑みかけるヨハンナさんの姿。
目にかかる日差しがかなり眩しく感じられ、どうやら陽がかなり高くまで昇っているらしい事に気付いた。

「私……、すっかり寝過ごしてしまっ……、あっ!」

自らの身に降りかかっていた状況を思い出し、慌てて身を起こした。

そうだ。確かアレクシスと共にマスニエラまで出向き、お爺様に婚約申請書の書類を書いて頂いて、夜を徹して馬車を走らせて、そして……そこからの記憶がない……。

「お目覚めになられましたか、お嬢様。そろそろ起きられませんか?」

「……おはようございますヨハンナさん。いつ戻って? ごめんなさい。私、どうやって……。床に就いた事も、覚えていないの」

「まだ夜が明ける前でしたから。お嬢様は余程お疲れだったのか、馬車の中でぐっすりお休みになられてお目覚めになられなくて。起こすにはしのびないからと、旦那様がこちらへお連れになったのです。今日はゆっくりお休み頂くようにと言われておりますから、大丈夫ですよ」

話の口ぶりでは、既にアレクシスはここには居ない様子だ。

「では、アレクシスは、もう領地へ?」

「もう、そのお時間かと」

「もう……って?」

「お戻りになり、その足で王城へと出かけられたのです」

「えっ? お城へ出かけられたの?」

確か、婚約申請の書類を提出するのは、明日になるかもしれないと言っていたのに……。

「きっと、ご友人のパウウェル様の所ですわ」

「パウウェル様って確か……、警務騎士団統帥長をなさっている?」

先月、夜会で紹介して頂いた時の事を思い出す。

「はい。この所ずっとお忙しくていらして、泊まり込んでいると仰ってましたから今回の件を踏まえて、色々とご相談したい事もお有りだったのではないでしょうか」

「相談……って……」

きっと、父の……、マニエールの家の事で、出向いたに違いない。
強硬的なスケジュールで、アレクシスもかなり疲れている筈なのに、私の家の事で無理をさせてしまっているのだと思えば、申し訳ない思いでいっぱいになってしまう。

「あら? もしかして……、お嬢様は、ご自分のせいで王城に出向かれたとでもお思いですか?」

「だって、そうなのでしょう? 私の家の事が無かったら、わざわざ疲れているのにお城になんて……」

「旦那様は、気が急いて仕方が無かったのですわ」

「……気が急いて?」

「はい」

弾むような声で、満面の笑みを浮かべるヨハンナさんの姿に、しばし考えを巡らせた。

今日は予定的に、領地の以外の事で、急な用事がアレクシスにはあっただろうか?
何も聞かされていなかったが、それにも関わらず私との事でわざわざマスニエラまで出向いてくれたのだとしたら、本当に申し訳の無い事だったと思っていれば。

「大切そうに、胸元へ仕舞われて……、ふっふっふっ」

「え?」

「嫌ですねぇ、婚約申請書ですよ。他に何があると言うんですか? 今の旦那様にとって、あの婚約申請書以上に大切なものなんて、マリエッタ様をおいて他には無いのですから、当然自ずと旦那様の中での優先順位も決まってまいります。領地の事など二の次三の次。提出されて戻られると仰っておりましたから、これでやっと正式にお嬢様をこちらへお迎え出来ますわ。それを思うと、私、嬉しくて、嬉しくて……」

確か、王城の公的機関の受付時間は……。

「……堤防の足場が如何とかって言っていたと思うのだけれど、それには間に合うの?」

「さあ、如何でしょう?」

「如何でしょう……、って」

「そんな事よりもお嬢様、そろそろお支度をなさいませんか? じきに旦那様も戻られると思いますし……」

「えっ? じきにって、今何時なの?」

「正午をまわった所ですわ。流石にお昼は食べられた方が宜しいかと思いますし、昨夜はお湯にも入っておりませんでしたから、旦那様が戻られる前に、身支度をされた方が宜しいかと」

「勿論よ」

流石に、戻って来たと言うのに、汗まみれでボサボサな姿で、アレクを出迎える気にはなれない。

『正午過ぎには一旦戻って来られると思う。午後のティータイムは一緒に凄そう』

昨日、確かに馬車の中でアレクシスはそう言っていた。

「大変! 急がなくちゃ。ヨハンナさん、お湯は沸いているかしら?」

「勿論です。ですがお嬢様、そんなに慌てなくても、旦那様がお戻りするまで、あと2時間はございますよ」

「ティータイムのお菓子、出来たら私が作りたかったの」

「お嬢様が?」

「簡単なものしか作れないけれど……、あっ。もしかして、もう準備しちゃったかしら?」

「いえ、それはこれからでございますが……、旦那様が喜ばれます。では、急ぎましょう」

起きるなり、私の慌ただしい午後が始まった。


湯につかり身を整えて、ヨハンナさんが用意してくれていた軽食を急いでいただいた。
そして、私の数少ないレシピの中から、手早く作れるマフィンを作ることにした。
ブルーベリージャムが常備されていると言うから、それも他の材料と一緒に投入し、ヨハンナさんにも少しだけお手伝いして頂いた。

「いい香りですね。上出来です」

「有難う、ヨハンナさん。おかげで間に合わせることが出来たわ」

「いいえ、お嬢様が結構手際が良くてビックリしました」

軽く雑談をしながら、アレクシスを待った。


アレクシスが戻って来たのは、ティータイムの時間を少し過ぎた頃だった。

「本当に、ハンデルの奴ッ。あいつは鬼だな! こうも全部私に振るか!?」

「まあまあ、旦那様。ハンデルも悪気は無いのです。留守の間領民を慰め諫めて下さったのです。領民にとっては、やはり何と言っても旦那様が一番頼りになるのですから」

「だが、なあッ!」

半ば不服を言い立てながら、馬車から降りて来ていたアレクシスが、私の顔を見るなり破顔した。

「マリー! 今戻ったよ」

「お帰りなさい、アレク。領地のお仕事、ご苦労様でした」

「ああ、マリーの笑顔を見たら、疲れなんて吹き飛ぶな。ただいま、私のマリエッタ」

満面の笑みで私を抱きしめると、いきなり深く唇を寄せて来た。

「んっ、アレ……っ、まっ……」

流石に2人きりでない時に、このような口づけは、恥ずかしくて、アレクシスの背を必死に叩く。

「……嫌なの?」

「嫌じゃないけれど……、恥ずかしいでしょ?」

「婚約者なのに?」

「申請書、出してきただけでしょ?」

「受理されたよ」

「受理されても、正式な決まった訳でもないのに……、こんな人前で……」

「だから、決まったんだって」

「えっ?」

「ロナルドの手配書が今日の午後に正式に公布された。それにより保留になっていた奴との婚約申請書は正式に破棄。既にマニエール家とドワイヤル家にもその旨が伝えられたそうだ。だからこれで私との婚約申請書だけが有効となる」

「……本当に?」

「本当だ」

「ああ、なんて素敵なの、アレクシス!」

私は自らアレクシスの首元に飛びつくと、彼の貪るような温もりを求めた。

マニエールの家の行く末を思えば、こんなに喜ぶべきことでは無いのかもしれない。
けれど、これでアレクシスと共に歩んで行けるのだと思うと、嬉しくてたまらなかった。

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~ Comment ~

NoTitle 

更新、お疲れ様です。

久々のお話、お待ちしてましたよ。

ようやく周囲から婚約状況をもぎ取った二人、嬉しくてたまらなさそうですねえ。
マリーもあんな嫌な奴どころか売国行為してる奴よりかはアレクのほうがずっといいでしょうしね。

やっぱりマリエール家がどうなってしまうのかは気になるでしょうが、これでアレクと誰にも後ろ指さされずにイチャつけますね。

ただ、ここまで来たら売国野郎しかりわからずやの父が逆ギレしないかが最後の問題でしょうね。

正直追い詰められた売国野郎が敵国へ亡命して機密情報売りまくって戦争をけしかけたり捨て身になった父が悪の道に開き直ってマリエール家の名誉を地に落とすような真似をしたらそんな身内のマリーの評判も悪くなってしまいますからね。
若干妄想も入ってますが、実際最後の悪あがきがどうなるか気になりますね。

 yama 様 

今日は。お久しぶりです^^

やっとです。
出したら最後、婚約申請書が受理されれば余程の事がない限り正式に認可が通るので、本人浮かれまくってます。アレクの場合は殿下とのお約束もあるので通らない事はあり得ませんが名ばかりですが審査も一応あります。でも、ここ、これからのごたごたに際し少し重要になって来るポイントです。
最後の悪あがきは、そう膨らみはしないかもしれませんが、まああのロナルドが、悪あがきしないという事は無いでしょうね(笑
まだここはお話しできませんが、最後までお楽しみいただければ幸いです。
コメント有難うございました。

NoTitle 

結婚届けですね~~。
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

最近は、どうやら記念品や結婚届を出す時の光景の写真とかをアルバムにしてくれたり、結婚届けがカラフルになってたりしてますよね~~。結婚が祝福されるものであるのはいつの時代も変わらないですね。

LandM 様 

今日は^^

まだ婚約申請ですす(笑)
受理されれば正式に許可が下りるのは殿下のお墨付きなので、この事については問題ないと思いますが、ちよっとまだあります。

何々、最近記念品とかあるの??
婚姻届けがカラフルになって色々な結婚情報誌や漫画雑誌の付録でありますね。
母子手帳貰う時は、出産本とか赤ちゃんの下着セットと頂きましたが……。

いつもコメント有難うございます。

NoTitle 

よく考えたら、このような身分制社会にあって、貴族階級の人間に「婚前交渉」が許されるというのは、よほどリベラルな国ですなこの王国……(^^;)

 ポール・ブリッツ様 

今晩は。お久しぶりです。
国的には別に大手を振って許している訳でも無いんですが、そこは、自主性に任せている感じです。
なので政略的ならば婚前交渉はほぼ無いかな。ですがこの二人はバリバリの相思相愛。おまけにアレクはあわよくば、デキ婚を狙って、掻っ攫う気満々でしたから♪
今となっては、もう周囲も仕方が無いかと諦めモードなので応援して見守っていると言うのが正しい見方なのかもしれません。
表立っては大手を振って公言できるものでは一応ないのですが、アレクはマリーを手に入れる為なら手段を択ばずと言った感じなので(笑

コメント有難うございました。
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