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信じても良いですか?旦那様ッ

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第23話

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知られたら最後、容易に信じて貰えないだろう状況は示唆していたが、流石にそれが現実となってしまい、目の当たりにするとかなりキツイものがある……。

「……シルビアっ……」

手を伸ばし、妻の頬に触れようとした途端、再び身を引かれた……。

今更後悔しても詮無い事なのだが、あの時……、危ういと思っていたグレンを目の前にして、酒のペースを緩めることが出来ずに妻と義母の愚痴を零しながら飲みふけってしまったのは己の失態。
だから、ここは妻を責めるべきではないと分かっているのに、信じて貰えない事でこれほど怒りがこみあげて来るのは何故なのか!?
それは自分の懸命なる想いが既に妻に届いていると信じていたからだ。

(クソッ!!)

心の中で、思いを飲み込み叱咤すると、何とか回避する術は無いかと回らない頭で考えた。
おそらくこの状況だ。
本当の事を全て告げた所で、容易に信じて貰えるとは到底思えない。
あの状況は己ですらまだ信じ難い事実なのだ。
ならば……。

「……実は、部下に誘われて、勤務後に飲みに出かけた。シルビアの事が気になっていたんだが……。遅くなってすまない……」

「そんな事を聞いている訳ではありません! 話を反らさないでください!!」

とりあえず、帰宅が遅れた事を詫びて様子を伺ってみる事にしたが、状況はあまり芳しくは無さそうだ。

「いや、聞いてくれ。そこに女給がいてだなぁ」

「はあ!?」

突然の女給発言はやはり不味かったか?
だが、女給が居たのは事実だ。

「シルビアは知らないだろうが、民間が経営する大衆酒場には深夜でも女を雇っている店がある」

「……夜半過ぎに……ですか?」

疑わしい目つきで私を見据える妻の眼差しがいたたまれない。

元々箱入り娘だった侯爵家の末娘だった妻。
一般市民が集う場、それも民間が経営する夜の酒場の実情など知る由も無い。
状況からして容易に信じて貰えるとは思えないが、この事実をまず受け入れて貰えなくては話が進まない。
結婚してから今まではたまたま機会も無かったが、民間からの登用のある我が騎士団のような部署では、結構常識的にこういう酒場での実情は知られている話だったりする事だ。今後もこのような場に足を踏み入れる可能性はあるのだから、ここは信じる信じないは別としても知って、多少は受け入れて欲しい所だったりもする。

私を見つめる妻の純粋な無眼差し。
妻のあの瑠璃色の澄んだ瞳で見つめられると、如何言う訳か正直に何もかもあらいざらい話してしまいたくなってしまうから不思議だ。
だが、今のこのような反応では、やはりこのまま最後までは話せないッ。
それにこの件に関しては、私自身、身の潔白を信じてはいるが、状況として意識を手放していた時間があった以上、どのような言い逃れも出来ない出来事だったと思っている。
だから嘘ではないが、部分的に略式化し、全てを話さずに済めばそれが一番だ穏便に済ませられるのではないかと思っている。
これが上手く行くか否かは神だけが知る領域だが……。

「そうだ。昼間よりかなり給金も高いらしい。事情があって働いている者も居るらしいが、実情は出会いを求めて……と言う女もいるのは確かだろうな。故に結構アピール度の高い衣服や鼻に突く香水を身に着けている輩が居たのは確かだが、私は端から相手にはしていなかった」

「…………」

疑わしい眼差しで、無言に私を見据える妻の眼差しが痛いッ。

「勿論、それでも隣にずうずうしく座って来る女が居たのは事実だ。直ぐに追い払いはしたが、残り香位はついていても不思議ではないだろうな」

「……残り……香?」

あまりにベタベタ付きまとわれ、直ぐに下がらせたが、給女から馴れ馴れしく腕を取られたのは事実なのだが、その事に何か疑問を覚えたのか?
妻の一言で、かなり私の内なる動悸が酷くなる。
情けない……。
こんな事で私は最後までしっかりと妻に話し切る事が出来るのか?
だが、やるしかないのだ。他に道は無い!

飲みには数としては少ないが、今までも結婚後に他の部署の団長等に誘われて帰る事はあった。だが、通っていたのはこのような民間の飲み屋街にあるような店では無い。
機密も守られるような高級店だ。
よって深夜に女の出入りなども勿論無い。
密かに高官などが情報交換用に隠れ家的に使っているような店だ。おそらく妻も義父の職業柄知っていたのだろう。これまで多くを問われた事も無かった。
だが、この聞き慣れない庶民的な店に関しては、おそらく疑問も多く出て来るだろう。
一体この説明で何処まで信じて貰えるのかと思っていれば……。

「……胡散臭いです!」

早々に、一蹴りされた……。
状況的には事実なのだが、世間慣れしていない妻には如何やらこのような店と言う時点で受け入れ難かったらしい……。
やはり、これは直ぐにでも本当の事を……、全て包み隠さず話した方が良いものなのか?
だが、民間の飲み屋の実情すら受け入れられない妻に話した所で、その後のあの忌々しい……思い出すにも反吐が出そうな実情を、到底信じて貰えるとは思えないッ。

「……いや、だが……」

本当に如何したものかと考えあぐねていると、何を思ったのか?
妻が突然肩にかけていた上掛けの裾を握りしめると、声を震わせ始めた。

「ああ……、そう言う事だったのですね……」

何だ? この反応は??
ここに来て、まさか理解して貰えたのか?
いや。だが……、私と目を合わせようともしないのは可笑しくないか?
それに心なしか唇も微かに震えてないか?
これは、まさかとは思うが……、いつものパターンなのか!?

「えーっと……?」

今までの妻の思考的素晴らしい妄想力を思えば、何だかとても嫌な予感が頭をよぎり始めた……。

「……それは……、そういう民間にある、如何わしいお店に通われていた……と言うご報告なのでしょうか?」

…………。
何故ここで、そう言う風に受け取る!?

「違う! 別にいかがわしくは無い! 酒を出すだけの店だ!」

「……そんな筈は……ありません! 民間の……、夜半過ぎまで営業しているお店は色を売るお店ばかりと聞いています!」

そう来たかッ!
しかし、それは庶民に対する偏見だぞ!

「その考えは庶民に対する冒涜になるぞ。改めなさい」

ここはきっちり訂正する。後の事もあるし、こちらも必死だ。

「本当に……あるのですか?」

「勿論だ」

「……嘘ッ……」

「嘘では無いッ!」

何故信じて貰えない?
何故妻はこうも頑なになっているのか!?

「だって、あの香りは……、クランベル8番ですのにッ!」

「はあっ?」

何か……突拍子なる発言が……。
何だ? クランベルの……8番って??
いや、勿論私もクランベルと言う高級化粧品を扱う店がある事は知っている。名の知れたブランドでご夫人等の話題にも上る事もあるからその名位は知ってはいたが……。

「妖艶さを醸し出す魅惑の香水クランベルの8番。女性の美を追求した素晴らしい香りだとデビュティーに際し、メーカー様よりご紹介に預かりました。ですが私は好きではありませんでした!」

「……そうなのか?」

妻は一体何を言おうとしているのか?
しかし、良かった。
あの忌々しい女の香りを、妻が嫌いで……。私もあの手のいかにも誘っている系の香りは嫌いだと思いながら、ゆるく安堵した表情を浮かべていると、妻から怒られてしまった。

「空惚けないで下さいッ! 社交界で一番流行している香りです。先頃まで数多くの方々と関わりのあった旦那様が知らないとは言わせません!」

「いや、確かに知らない香りとまでは言わないが……」

「隠し立てされるのですか?」

「隠し立ても何も私はッ」

って言うか、何故たかが香りで妻はこうもエスカレートしてしまっているのか?
と思っていれば、続く妻の発言に私は度肝を抜かされた。

「好きになれない香りでしたが……。けれど、旦那様がお好みでしたら、今後は使用も検討したいと思います!」

何だって!!?

「いや、待てッ! それは止めてくれ!!」

妻があのドギツイ香水をつけるだと!?
冗談じゃない!
妻にはそんなものはいらない!! 私はありのままの妻の香りが好きだッ。
妻が好んで使っている淡いローズの香油の香りを好ましく思っているし、妻自身から滲み出るあの柔らかな香りが何より欲情を駆り立てる!

「私では……、やはりクランベルの8番は似合いませんか?」

「絶対に似合わないから止めてくれッ!」

と、強く出て後悔した。
妻がかなり肩を落として項垂れたのだ。
やはり、流行の香りが絶対に似合わないと言う発言は少し不味かったか?

「……そうですか……。だからなのですね?」

「えっ!?」

「クランベルの8番は確か、かなり良いお値段だったと記憶しています。特に30~40代のご夫人等に最も人気が高く、現在入手も困難で順番待ちとお聞きしています」

「そうなのか?」

「そのような高価で入手も難しい商品を、容易く民間の方々がお手にできるものでは無い無いのに……。私が浅はかでした」

「いや……、だからそれは……」

もしかして……、私は何かしくじったのか?

「クランベルの8番を使用しているご婦人が、旦那様と密接的な状況にあったのは明白なのに、私ったら往生際が悪くて……」

「えっ!?」

「……旦那様、もう嘘は沢山です!!」

妻は奥歯を噛みしめながらも気丈に振舞おうと、涙目になりながらも必死に耐えていると言った様子だ。

「ッ……ちが……ぅ」

私は自らの愚かさを叱咤した。

「で、相手は……、何処のご夫人なのですか!?」

「違う……本当に、違うのだッ!」

「この期に及んで、まだそのような嘘をッ!?」

信じて貰える貰えないは別として、本当の事を包み隠さず全て暴露しようと、この時心に決めた。
何もかも正直に……。
所詮妻にはやはり隠し事など私は出来ない性分なのだ。

そして、全てを話して、もし信じて貰えなければその時は……。
いや、今その事を考えるのは止そう。
私の妻に対する実直で誠実なる思いだけは、現実がどうあれ伝わるものと今は信じたいッ!

「……実は、嵌められた……」

「はあ!?」

「同期の同僚の部下に……」

「旦那様が……ですか!?」

一瞬だけ怪訝そうに私を見つめる妻の眼差し。

「…………」

しかし項垂れたように暫く無言で口を結んでいると、想像だにしていなかったのか?
妻は私を覗き込み、驚いたように瞳を見開らいた。
そして、何度も瞬きを繰り返している。
その表情が何とも言えず愛らしく、今このような状況なのに思わず妻を抱きしめてしまいたくなるのは己の妻への深い愛情の表れだと思う。
だが、今ここでそれをするのは流石に不味いと、腹の底に力を入れてじっと我慢した。
そして、ゆっくりと私は口を開く。

「そうだ。この、私がだ……。だから信じてくれ! 私の心は、本当にお前を裏切ってはいないのだッ!!」

懸命なる思いは、絶対に伝わるものだと信じている!
瞳を反らさずに、妻に強い視線を送る。

「……本当に?」

「本当だッ!」

「……ならば話して……」

私の苦痛に歪んだ表情が痛々しく感じられたのか?
妻は静かに……、優しく私に問いかけると更に私の瞳を覗き込む。
少しだけ表情の和らいだ妻の優しい眼差しが、最後まで私に向けられ続ける等と言う都合のいい解釈は到底できないと分かっている。
それでも、真実を告げるべき時は今なのだと自身を強く奮い立たせる。
私は覚悟を新たにした。
愛する妻を信じて……。

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~ Comment ~

NoTitle 

閣下、奥方様、結婚とは、『妥協』だと、古代の哲人も申しております。

些細なことで毎回、かようなボクシングの試合のようなことになってしまっては、リングとグローブがいくらあっても足りませぬ(笑)

ポール・ブリッツ 様 

今晩は。
返信遅くなりました。

確かに、結婚に妥協が無ければ直ぐに『離婚』と言う文字が見えて来そうになりますよね^^;
どれだけ相手を信じられるか、妥協できるかそれが大きな問題となります。
そして結婚を持続させるには忍耐が必要不可欠です(笑

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