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信じても良いですか?旦那様ッ

離婚しましょう? 旦那様ッ・続編『信じても良いですか?旦那様ッ』 第32話(エピローグ)

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移りゆく季節の中で、時も確実に満ちて行く。
悪阻の経過が心配されたローゼリアン伯爵邸の妻シルビアも、爽やかな日差しの季節になった頃には悪阻もすっかり収まり安定期を迎え、この半年間は日々夫と共に園庭散歩を楽しんでいた。

「まあ、旦那様。フィフィリア草の蕾が、ほら」

「今年は早いな。どうりで寒くなってきた訳だ。お前が嫁いで来た頃にもこうやって二人で満開の花を眺めた事があったな。覚えているか?」

「勿論です。とても可憐な白いお花で、旦那様は、私に良く似合うと言い摘んで下さり、髪にさして下さいました。私はその事がとても嬉しくて……」

妻は当時を思い出し、嬉しそうに頬を染める。

「そうか」

妻へと芽生えてしまった感情に戸惑うままに、初心の妻を毎夜抱き潰してしまう訳にはいかないからと、己の邪念をぬぐい去る為に、せめて気分転換にと園庭散歩に連れ出していた私の気持ちなど、妻には知る由も無いのだろう。
当時の私は、いつも今後の関係性に悩んでいたのだが、それも今では懐かしい想い出の一つだ。


フィフィリア草は、ふゆ月に用いられる代表的な花で、寒い季節でもしっかり根付き綺麗な花を咲かせることから、多くの屋敷の庭園を彩る花としても使われている。

「私が幸せな気持ちになると、この子は良くお腹を蹴るのよ。賢い子だわ。さっきから元気過ぎてお腹が痛いくらい」

「大丈夫なのか?」

「ふふっ、大丈夫よ」

妻には内緒だが、先日医術師のマグノーマル先生より、月齢のわりには幾分胎児が下がっていることを告げられた。
それが意味することは早産と言う文字。
だが、間もなく臨月を迎える事から、過度のストレスを与えるよりも良いだろうと、このまま普通に過ごす事を勧められた。
例え早産になったとしても、この時期ならば十分育ってくれるだろうと。
幸いにして我が子はすこぶる元気だ。妊娠初期のような問題は全くない。
とは言え、満期を迎えて出産できるに越したことは無い。
その事もあり、しばらくは出来るだけ日勤帯で仕事を終えるように心がけ、書類などは邸に持ち帰るようにしていた。私室では、何かあればすぐに対応できるように心がけている。

「シルビア」

「何?」

「幸せかい」

「勿論よ。毎日こうやって、旦那様のお傍にいられるんですもの」

「私もだ」

自然と見つめ合い、唇が近づくと互いの熱を伝え合う。

「んんっ……」

貪るような口づけは、自らの欲情を煽ると分かっているから、出来るだけスマートに済ませようと思っているのに、妻の口元から零れ落ちる甘美な声を聞けば、それだけではおさまらなくなってしまう。

「……んぅ……、はぁ……、だんな……さま……っ」

口内の隅々までを舐めまわし、執拗なまでに舌を絡め合う。
妻の身体に触れたくて仕方がない。
これ以上密着し続ければ、己の欲を抑えきれなくなるッ。
決死の覚悟で、妻から身を離した時だった。

「いッ……」

妻が急に顔をしかめたかと思うと、腰から崩れ落ちるように倒れ込み、私は慌ててその身を支えた。

「シルビア! 大丈夫か? 如何したんだ!?」

蹲る妻の姿に、慌てふためく。
頭の中に、先生が口にしていた、『早産』と言う二文字が浮かび上がる。

「大丈夫……。直ぐに治まるわ。さっきも……、大丈夫だったもの」

「さっきもって……、何故黙っていたんだ!?」

「だって、旦那様とのお散歩……、お休みしたくなかったし、大したことないもの」

「…………」

そうだった。すっかり失念していた。
妻が自らの身体状況に、かなり疎い傾向にあった事を……。

「とにかく中に入ろう、シルビア。風も少し強くなってきたし、身体を冷やすと良くない」

「……そうね」

明日の朝一にでも、マグノーマル先生に診て貰おう。
このままでは、妻が心配でおそらく仕事もままならない。

抱き上げて連れて行こうとすると、傷口が開いたら大変だからと拒否された。
暫く様子を伺い、痛みが治まるのを待ってから、妻の腰に手を回し、ゆっくりと歩き始めたその時だった。

「ぁっ……」

妻が急に立ち止まり、身を固くした。

「シルビア!?」

嫌な予感が脳裏をかすめる。
妻の顔からは、みるみる内に血の気が引き、その表情は正に蒼白。
ただ事ではない事態に陥っている事を察知した。
妻の身に、何かが起こっているのか?

「……旦那様……、たすけて……」

妻の差し迫った言葉に、急いで抱き上げようとしてハッとした。

腕に触れる生ぬるい液体。
まさか……、これは……。
破水……したのか!?
だとすれば、少し早いが、おそらく出産が始まる事になる。

「だっ、大丈夫だ。私がついている。大丈夫たッ!」

「旦那様……」

自らに言い聞かせるように怒号すると、私は妻をその場で抱きかかえ、急いで邸の中へと運んだ。



「旦那様、少し落ち着いてください」

「無理だ!」

執事の問いかけに、私は即答した。
落ち着ける筈がないッ!

あられかすぐに人をやり、医術師のマグノーマル先生が到着し、妻は診察を受ける。
やはり破水しており、既に陣痛が始まっていた事から、このまま出産になると告げられた。
シルビアが蹴られて痛いと言っていたのは、微弱陣痛が始まっていたせいだと考えられると告げられた。
……陣痛に気付かない妊婦とか、聞いた事がないぞ。
もっと早くに気付いていれば、出産を遅らせる事も出来たのだろうが、既に大量に破水してしまった今となってはもう遅い。
早くに出産する以外に胎児を守る方法は無く、促進薬を使っての出産を了承した。


破水した場合の、一般的な出産時におけるタイムリミットは24時間。
分娩が開始され、既に19時間をまわっており、抗菌作用のある薬湯を飲んでいることから妻の身は感染症から守られるかもしれないが、長引けば胎児の生存が危うくなってしまう。
胸に仕舞った懐中時計を何度も取り出しながら時間の経過を伺うが、中々時間(とき)は進んではくれない。
意味もなく、出産が行われている扉の前を落ち着きなく、何度も歩き回る。

「旦那様、少し座りませんか?」

「……はあーっ……」

大きなため息をつき、一度ソファーに腰を下ろすが、それも長くは続かなかった。

とにかく妻と子が心配でならなかった。
頼むから、如何か……。

「……どちらでも良いから、無事に生まれてくれ……」

最初は思う所もあったが、もう後継ぎでなくても関係ない。
女の子でも構わない。
とにかく無事にさえ生まれてくれさえすれば……。

殿下の婚約者候補の件ついては、この父が何が何でも早い段階で殿下の縁談を取り纏め、お前を守ってやるのだと、強く心に誓った。
その時だった。
隣室から、けたたましい赤子の声が聞こえて来た。

「あっ……」

「どうやら、無事、お生まれになられたようですね。旦那様、おめでとうございます」

「ああ……」

……生まれた……。

嬉しくて……、心が満たされて言葉にならない。

やがて、開かれた隣室から現れた、医術師に告げられた。

「おめでとうございます。女のお子様です。少しお小さいですが、とてもお元気で、肺の発達も悪く無い。おそらく今後の成長に、大きな問題は無いかと……」

「妻は?」

「少し発熱しておりますので、暫く安静が必要です。大変良く頑張られました。ねぎらって差し上げてください」

「勿論だ」

医術師のマグノーマル先生に促され、隣室の扉を開く。
そこには疲れ切ってはいるが、満面の笑みで隣に横たわる娘を愛し気に見つめる、妻の姿があった。

「旦那様……」

「シルビア。良く頑張ったな。可愛い娘を……有難う」

「ふふっ、女の子なのに、旦那様にそっくりなの。きっととっても美人さんになるわね」

「そうかな?」

「殿下はこの子を気に入って下さるかしら?」

「今は何も考えるな。ゆっくり休め」

「はい……」

妻の出産に伴い、仕事を休んだ事で、子供の誕生も直ぐに殿下の許へも伝わるだろう。
出生届も提出しなければならない。
その時、殿下は本当に我が娘をお妃候補に望まれるのか?
陛下の許しは既に得ているらしく、後は殿下の一存ですべてが決まる。
妻の容姿に見惚れていた殿下の姿を思えば、一部の望みはあるようにも思われるが、娘の将来が危ぶまれてならない。

愛しい妻との間に生まれた、初めての娘。
私は命を懸けて、この娘を殿下から守り抜くのだと心に決めた。


この時のローゼリアン伯爵は、やがて生まれ来る娘と共に相次いで、お妃候補に我が娘が名を連ねることになる事を、知る由もなかった。

それはまだ、もっと未来の物語――。


≪Fin≫

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ずい分とお待たせしておりますが、父の四十九日の法要も先週終え、令和と言う新しい年号もスタートしましたので、ゆっくりではありますが少しずつ更新してみようと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。

涼音
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~ Comment ~

NoTitle 

お久しぶりです~~。
お待ちしておりました。
(≧▽≦)

日本の宗教上的には、
49日で彼の世に行くと言われていますからね。
お父様も天から見守ってくれていると思います。


まあ。
男性はなかなか
女性の状況に気づかないものですからね。
仕方がない(笑)。

私も姉の出産の時は、
たまたま夜勤明けで家に居たので電話で叩き起こされました。
もうすぐ出産するな~~と思っておりましたが、
いざ来ると、男は普通にビビる。
( 一一)

LandM様 

ご無沙汰しています。
やっと帰って来れました^^

父の世話をしていた頃の話を突かれなければ、普段はもう落ち着いたものです^^

うちの旦那も疎かったですね~。
かと思えば、凄いマイペースで(笑)
おまけに全然頼りになりませんでした(爆

次は番外編行って、次世代篇のUPを考えています^^

いつもコメント有難うございます。
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