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婚約者候補筆頭なんて知りませんッ

婚約者候補筆頭なんて知りませんッ 第16話 背後から襲い来る者

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 誘われるままに殿方の手を取り、もう幾人と踊っただろうか?

「私たちも少しあちらで休憩しませんか?人気者の貴女は既に何曲も踊られている。さあ、こちらへ」

 次から次へと誘われ、踊る事に夢中になりすぎていたが、気付けばホールに残る人は疎ら。
 皆、一体どこへ行ったのだろうか?
 その事に少し気がかりを覚えつつも、確かに私の脚もかなりパンパン。
 そろそろ限界も近かったので、その気遣いがとても嬉しかった。

「あら、お優しいのですね」

「このような場でレディに無理をさせる事を、私が得意としないだけですよ。最高級のレディは敬われるものです。さあ」

 こんなに甘い言葉を投げかけられ、誘われるのは初めてで、みるみるうちに頬が紅葉していく。
 笑顔で差し向けられた彼の腕を遠慮がちに取りながら、共に中央の輪から離れテラスの方へと歩き始めた。
 馬車の中から少し見ただけだが、確かこの先の庭園奥には東屋(ガゼボ)が点在していた筈。
 そこで夜空の星を眺めながら語らい、少し休憩するのも悪くはないと思っていると、あからさまに私たちの行く手を遮る人影があった。姉さまだ。

「あら、どちらへ?」

「こちらのご令嬢が少しお疲れのようなのでね」

「でしたら、こちらへどうぞ。お席は空いていますわ」

「いえ。お気遣いは嬉しいが、私たちには不要です。ね?」

 とろけるような甘い笑顔で見つめられ、反射的にうっとりと見つめ返し、軽く頷く私。
 なのに更に行く手を遮られた。

「なッ!?」

 状況を察してくれず、しゃしゃり出て来る姉の態度がとても鬱陶しく思えた。

「余計な世話は止めてよ!」

「ここから見渡せる範囲だけでも、先ほどから姿が見えなくなったカップルが7組。何方もとても親密に寄り添っていらしたけれど、どちらに向かわれているのかしら?」

 何かを勘繰るような姉の失礼な態度に、彼が気分を害していないか気がかりでいれば、案の定……。

「無粋な事言うな。なんだ、お前は!」

「私は好奇心旺盛な妹が、知人より面白い夜会があるからと初めて誘われ参加しているものですから、知らないお宅で羽目を外さないようにと見ていただけですわ」

「……妹?」

 姉の言葉に、彼は私の方を覗き込む。

「まるで保護者だな」

 そう告げると小さく鼻で笑った。

「如何とでも仰れば」

 強気な反応で、更に彼を嗾けている風にも見える。
 一体何をしているのかと思えば、いつも胸元に隠し持っている防犯用の棍棒を握りしめ身構え、険しい表情をしていた。
 その姿に、彼が目を見開く。

「お前……っ」

「こういう事、得意なの」

 何かを言いかけて、一旦口を閉じた。
 姉の俊敏な動作に、口先だけではなく女だてらに腕に覚えがあると感じたのか、彼は表情を歪ませると、小さく舌打ちをした。

「……そういう事か」

「そういう事よ!」

 そこには、先程まで優しかった筈の彼の眼差しは無かった。

「……お相手、有難うございました」

 腕を解き、少し強張った表情のまま作り笑いをする彼は、こちらに向け深々と礼をする。
 その姿は、何処か悔しそうにも見えた。

「……いえ、こちらこそお相手、有難うございました」

 去り行く彼の後姿を見つめる横で、姉があからさまに大きく深いため息をつき、その姿がとても癪に障った。

「シル、あなたって子はッ。気分に流されることなく、状況を把握して行動するようにいつもお父様からも言われているのに、いつもどうしてこうも軽はずみなの?今日なんて少しだけでも周囲に目を配っていれば自ずと異常な状況は把握できていた筈よ。あまりにも男性の態度はあからさまだったじゃない。少しちやほやされただけであんなに浮かれて……、姉さま見ていてどれだけハラハラした事か。いい気になって軽はずみな行動をしていた事を反省なさい!」

「何よ、私は少し踊っただけじゃない」

「いつもより、かなり親密にね。密着度も男性の貴女を見つめる眼差しも下心のありありだったじゃない」

 そういえば……。
 思い返し、思う所はあったが素直になれなかった。

「そうかしら?」

「手をやる腰元の位置をかなり下の方にずらしていた殿方もいたわよね。あれを変に思わなかったの?」

「だって皆身長も違うから、位置だって変わって来るでしょ」

 多分私は姉に助けられた。
 その事を分かっていたのに、素直に頷く事が出来なかった。

「……もう、いいわ。とにかく、ここの夜会は普通のものとはかなり趣きが違うのよ。おそらく男女の親密な出会いを主としている夜会よ。どうやら女性が男性の手を取り輪から離れれば契約は成立する仕組みみたいね。早々に奥の部屋へと消えて行ったカップルが何組もいるわ」

「そんな……っ。私マグリットからそんなこと一言も……。ここへは私を心配して連れて来てくれたはずなのよ。大切なお友達が、気分転換になればって誘ってくれたのに」

「大切なお友達? ではそのお友達が、今ここで何をしていると思う?」

「えっ?」

 そう告げられて辺りを見渡してみたが、そこに誰よりも大切に思っていた筈の友達の姿は無かった。

「 ……マグリットは?」

「ある殿方と……、二人目だったかしら。とても親し気に東屋の方角へと消えて行ったわ。声を掛けようとしたけれど、目が合った途端、あからさまにとても嫌そうな顔をされたの。そして、後はまるで無視」

「……そんな……っ」

「あなたも、今の今まで甘い言葉に惑わされてマグリットの事なんて忘れて浮かれていたわよね。人の事は言えないわね。まあ、あなたの場合は慣れない殿方からのアプローチに浮足立っただけで深い意味合いは無かったんでしょうけれど……」

 姉の言葉に、背中から冷や汗が流れて落ちて行くのを感じた。

「彼女、慣れているわね」

「えっ?」

「あの娘、多分この夜会の常連ね。誰とお友達としてお付き合いするかはあなたの自由だけれど、これからも殿下のお側にいたいと思うのならば、今後お付き合いをするお友達はもっと慎重に選んだ方が良いと思うわ。口ばかり達者な友達は要注意。もっとしっかり周りを見れるようになりなさい」

 姉から告げられた言葉に、今までの自らの行動に多少の自責の念を覚えつつも、この時素直になれなかったのは、私の悪い所だったと思う。
 けれど自尊心を傷つけられた事もあり、この時の私はどうしても素直になれなかった。

「お姉さまなんて嫌い!いつも口うるさい事ばっかり……。余計なお世話よ。もう放っておいてッ!」


 怒りに任せて、呼び止める姉の腕を振り切るようにその場を後にしたのはほんの10分ほど前の事。
 その言葉が間違いだったと気付くのに、そう時間はかからなかった。

 
「やあ、レディ」

 私の事を、いつから見ていたのだろうか?
 去って行ったと思っていたのに、何処かで見張っていたのか?
 先程別れた筈の彼が何処からともなく突如近づいてきて、私は肩をビクリッと震わせた。

「さっきは良くも私に恥をかかせてくれたね。まさか、あんなお目付け役が潜り込んでいるとは……。でもお姉さんの事、嫌そうにしていたし、あのマグリットの紹介なんだから大丈夫だよね。姉さんはどうせ無理矢理ついて来たって口だろ?」

「ち……」

 否定したいのに、突然の出来事に恐怖で声がうまく出てこない。

「だから離れるのを待っていたんだ。さあ、もう邪魔者はいない。もっと仲良くなろうよ」

「ちっ、違うの……。私はっ……」

「何が違うんだよ!」

 明らかにダンスを踊っていた時との甘い表情とは違う。
 自己顕示欲の強い彼の態度に、私は戸惑いを隠せずにいた。
 掴まれた腕を振り解こうとするが上手くいかない。
 抵抗しようとする私の姿に、彼は更に激情しているようだった。

「こうやって、嫌がられながらって言うのもそそられて悪くはないが、双方合意の下って言うのがここのルールだから、それは守らないとね。義務だからね。だから、少し黙っていて貰おうか」

 ポケットから何かを取り出された。
 香水の小瓶のようなものを顔にめがけて向けられて、私は必至でそれを背けようとする。

「……やっ、姉さ……ま……っ!」


 吹き付けられようとした次の瞬間。

「シルっ、逃げて!」

 突如横の草陰から現れた姉が、私を突き飛ばした。

 ……膝が立たない。
 足が震えて……。

「早くッ、父さまに知らせて! !」

 姉が彼の腕を掴み格闘している。
 応戦している姿を横に感じながら、私はわななく膝を抑えながら何とか立ち上がると、その場を必死で離れた。
 
 父さまッ、……助けて!!

※かなりおまたせしてスミマセン。ぼちぼち更新します。

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